磯村勇斗、民放連ドラ初主演の評価は? 趣向をこらした演出術とは?『僕達はまだその星の校則を知らない』第1話考察&感想【ネタバレ】

text by ばやし

磯村勇斗主演のドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)。本作は、いじめや不登校など学校で発生する様々な問題を扱うスクールロイヤー(学校弁護士)が、不器用ながらも向き合う学園ヒューマンドラマ。今回は第1話のレビューをお届け。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 感想 レビュー】

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磯村勇斗、民放連ドラ初主演への期待

『僕達はまだその星の校則を知らない』第1話 ©カンテレ
『僕達はまだその星の校則を知らない』第1話 ©カンテレ

 朴訥とした空気が漂う映像も、物語の舞台となる学校の雰囲気も、思い思いの悩みを抱える登場人物たちを演じるキャスト陣の芝居も、なぜこんなにも澄んで見えるのだろう。淡い光の粒が揺らめくなかを透き通るようにして、不思議なほどに幻想的な世界観が映し出されていく。

『僕達はまだその星の校則を知らない』は、大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合、2021)を手がけた大森美香のオリジナル脚本で綴られる学園ヒューマンドラマだ。

 本作の大きなトピックと言えば、今やその実力で確固たるキャリアを築きつつある磯村勇斗が、民放連ドラ初主演を務めることだろう。個人的には、彼が主演を務めるその事実だけで、本作を視聴する大きな決め手になるほどの域に突入している役者だと思っている。

 そんな磯村が演じるのは、独特な感性を持つがゆえ、何事にも臆病になってしまう弁護士・白鳥健治。彼は恩人でもある弁護士事務所の所長・久留島(市川実和子)の指示で高校に派遣されることになる。

「なぜ弁護士が高校に?」と思う人もいるかもしれないが、現在、刻々と生徒を取りまく環境が変化している教育現場において新たに導入されつつあるのが、“子どもの最善の利益”を守るために法的アドバイスを行う“スクールロイヤー(学校弁護士)”と呼ばれる役割だった。

 しかし、健治は子どもの頃、周囲とは異なる感覚とマイペースな性格から学校になじめず、不登校になった過去があった。

 物語の舞台となる「濱ソラリス高校」もまた、複雑な事情を抱えている。男子校の「濱浦工業高等学校」と女子校の「濱百合女学院」が合併したばかりで、共学化した弊害により生徒間のトラブルも頻発。両校の元教師たちも一枚岩とは言えず、今だにうまく連携が取れていない。正直、この状況下で軋轢が生まれないほうが不思議なくらいだろう。
 
  そんなゆるゆると地盤が安定しない学校にやってきた健治だったが、初対面となる濱ソラリス高校の先生たちの前でも、学校が好きではないことを正直に白状する。所在なさげな表情で「どうせ働くのであれば…」とあまりにも率直な思いを吐露する姿には、健治の不器用な性格が滲みでていた。すでに磯村の芝居の色やトーンが役柄にも浸透しているのがよくわかる一幕だ。

高校理事長・尾碕(稲垣吾郎)VS生徒たち

『僕達はまだその星の校則を知らない』第1話 ©カンテレ
『僕達はまだその星の校則を知らない』第1話 ©カンテレ

 そんな学校に不慣れな健治のサポート役を任されたのが、国語教師の幸田(堀田真由)。『3年A組 -今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系、2019)に代表される生徒役のイメージも強い堀田真由だが、どこか頼りない健治にも寄り添いながら、生徒達に向ける優しげな眼差しは先生の目線そのもの。

 一方で、健治の前では子どものように無邪気な笑顔を見せる一面もあり、人間味のあるキャラクターを堀田がどのように演じていくのかも今後の注目ポイントだ。

 服装や慣習、校風など、さまざまな学校におけるルールを束ねるのが“校則”だ。ただ、実際の法律とは異なる解釈も含まれる校則は、生徒側と学校側の間でしばしばトラブルを引き起こすことがある。

 濱ソラリス高校でも、元々の女子高の制服を着続けたいと願う北原(中野有紗)と髪型を自由にしたい藤村(日向亘)が、健治の助言もあって、学校に校則の改正を求める模擬裁判を開廷することに。

 しかし、そこで主役に躍り出たのは、濱ソラリス高校の理事長である尾碕(稲垣吾郎)だった。自主的に行動を起こした生徒を立てながらも、丁重な言葉遣いと毅然とした態度で理路整然と校則の必要性を述べる姿は、まさに稲垣吾郎の独壇場と言っても過言ではない立ち振る舞い。閉廷間際には、健治とのつながりも示唆されており、尾碕のステートメントがはっきりと伝わるシークエンスとなった。

 一方で、理事長の言うことが正論だからといって、北原らの主張がサイレントマジョリティの声によってかき消される言われはないはずだ。真剣な表情で懸命に言葉を紡ぐ彼女たちはもちろん、それぞれの意思で不登校を選んだ生徒会長の鷹野(日高由起刀)と副会長の斎藤(南琴奈)の行動もまた、決して否定されるものではない。

 ファンタジーな世界観を垣間見せつつも、生徒たちの等身大で切実な思いに光を当てて描いていく。実際、日高由起刀と南琴奈が芝居で見せた瑞々しく煌めくようなやりとりは、これからのストーリー展開にも大きく期待してしまうほど輝いて見えた。

随所に散りばめられた宮沢賢治のエッセンス

『僕達はまだその星の校則を知らない』第1話 ©カンテレ
『僕達はまだその星の校則を知らない』第1話 ©カンテレ

 最後に、宮沢賢治のエッセンスがあらゆる場面にちりばめられていることにも触れたい。宮沢賢治の大ファンで、彼のこととなるとニマニマして饒舌になる幸田はもちろん、冒頭では「星めぐりの歌」を歌う健治と母親の姿とともに、童話「双子の星」の絵本が映し出される。

 個人的には、各シーンで印象的に流れる劇伴や、健治が祖母の可乃子(木野花)といっしょに住む家のインテリアにも、宮沢賢治の童話を彷彿とさせる世界観が感じられた。

 そして何よりも、本作からは宮沢賢治の文章にも通ずる、風の色や音の匂いを感じとることができる。光の演出や環境音など、エフェクトにも趣向が凝らされていて、健治が現実で抱いている感覚は、宮沢賢治の物語を読む我々とも似ているのかもしれないと思わせられた。

 さまざまな登場人物たちの思いが揺らめき、たゆたうのが目に見えた第1話。「銀河鉄道の夜」に登場するジョバンニとカムパルネルラのように“ほんとうのさいわい”について思いを馳せる健治の成長とともに、生徒たちの切実な思いに耳を傾けたいと思える初回放送だった。

【著者プロフィール:ばやし】

ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。

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【了】

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