映画『世界征服やめた』評価&考察レビュー。不可思議の曲が心に染みる…藤堂日向の5分以上の独白シーンに圧倒されたワケ
俳優の北村匠海が、自ら企画・脚本を兼任した短編映画初監督作『世界征服やめた』が公開中だ。夭折した孤高のポエトリーラッパー不可思議/wonderboyの名曲を原案とする本作の魅力を多角的な視点で解説する。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。
原案となった楽曲に漂う漠然とした不安
不可思議/wonderboyの楽曲「世界征服やめた」と同じ言葉で始まる物語は、俳優やアーティストなど、多岐にわたって活躍の場を広げている北村匠海の初監督・演出作品であり、初脚本作品でもある。
裏方としてさまざまな役目をこなしながらも、北村自身は作品に出演していない。当て書きするような気持ちでオファーしたという萩原利久と藤堂日向に大切な役柄を託したことからも、作品をつくる側としての並々ならぬ決意が感じられる。
そして、映画を制作する発端となった不可思議/wonderboyの楽曲にも触れざるを得ないだろう。詩を詠むように言葉を紡いで歌う「ポエトリーリーディング」と呼ばれる音楽と、衝動的な熱を帯びたパフォーマンスで観客を魅了しながらも、2011年、不慮の事故により夢半ばで命を落とした彼の音源は、今もなお多くの人々の心にこだましている。
本作の原案となった不可思議/wonderboyの楽曲「世界征服やめた」に漂うのは、平凡な日常がずっと続いていくことへの漠然とした不安や倦怠感。そして、それでも闘う意思を絶やすことなく燃やしつづける反骨心。
北村監督が同曲からインスパイアされたとの言葉どおり、クリアに反響したまっさらな想いが映画には詰めこまれていた。曝けだされていたといってもいい。
登場人物たちの想いを掬いあげるのではなく、一つひとつの感情を一本の串に刺していくような生々しさが、この作品には存在していた。