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ウルトラミラクルラブストーリー 演出の魅力

型破りな行動で周囲を驚かせるイノセントな農家の青年が恋に落ちたのは、事故で亡くなった婚約者の“首”を探して片田舎にやってきた保育士の女性だった…。

未だかつてこれほどぶっ飛んだラブストーリーはあっただろうか。観る者にそう思わせずにはおかない、エキセントリックな作品である。

メガホンをとったのは、本作の舞台である青森出身の横浜聡子。映画美学校在学中に撮りあげた短編『ちえみちゃんとこっくんぱっちょ』、自主制作の長編『ジャーマン+雨』で見せた自由奔放な演出は、商業映画デビューを果たした本作でも遺憾なく発揮されている。

主人公の陽人(松山ケンイチ)を特徴づけるのは、トラックの荷台から客に向かって野菜を放り投げ、勤務中の町子(麻生久美子)に愛を叫び、彼女の手を引いて窓から外に引っ張り出そうとするといった、純粋ではあるが自己中心的なアクションである。

本作では、そんな陽人のアクションが、クローズアップではなく、広い画角で、生き物を観察するようにじっくりと映し出される。そうすることによって、陽人のアクションに迷惑そうな素振りを見せる人、彼を制止しようとする人、面白がって身を踊らせる子供たちなど、多様なリアクションが共存することになり、フレームは奇妙な祝祭感で包まれる。

何の変哲もない日常をお祭りに変えてしまう陽人のアクションは、観る者を不快にさせると同時に、熱狂的な陶酔感をもたらす。本作が描く、“並はずれて奇跡的な恋愛”は決してお行儀のいいものではなく、理性や良識を超えた、野蛮さを持ち合わせているのだ。

遠景の長回しカットを駆使したスタイルは、映画に祝祭感を与えるとともに、舞台となった青森の風土もしっかりと伝えている。また、町子が通勤の際に使う自転車や、陽人が運転する軽トラック、森で倒れた陽人を見下ろすヘリコプターなど、様々な乗り物が要所要所で登場しては、鮮烈な印象を残す。

中盤には、夕方の田園地帯を背景に、町子と陽人が電話番号を教え合う素敵なワンシーンワンカットがある。陽人は自転車のサドルを机代わりにして紙に数字を書きつける。ぎこちない姿勢で一心不乱にペンを走らせる姿はユーモラスだが、不安定な自転車の動きも相まって、二度と再現できない、一度きりのアクションが克明に記録されている。

ドキュメンタリータッチで、恋愛がもたらす陶酔感と胸の高鳴りを繊細に表現してみせる演出は、魅惑的という他ない。

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