ホーム » 投稿 » 海外映画 » 劇場公開作品 » 映画『ベネデッタ』は面白い? 忖度なしガチレビュー。カンヌ国際映画祭騒然の衝撃作【あらすじ 考察 解説】

映画『ベネデッタ』は面白い? 忖度なしガチレビュー。カンヌ国際映画祭騒然の衝撃作【あらすじ 考察 解説】

text by ZAKKY

鬼才ポール・ヴァーホーヴェン監督の最新作、映画『ベネデッタ』が公開中だ。17世紀に実在した修道⼥の裁判記録に感銘を受けた監督が、暴力・セックス・教会の欺瞞を挑戦的に描き、カンヌ国際映画祭では賛否の声が上がった。今回はヴァーホーヴェン史上屈指の問題作のレビューをお届けする。(文・ZAKKY)

【映画『ベネデッタ』あらすじ】

(c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA

時は17世紀。現在のイタリア・トスカーナ地方にある、町・ペシア。実在した幼い頃から聖母マリアと対話をし、奇蹟を起こす少女とされていたベネデッタは6歳で出家しテアティノ修道院に入る。純粋無垢なまま成人した彼女は、ある日修道院に逃げ込んできたバルトロメアを助ける。そして、2人は同性愛者としての関係を深めてゆく。

ある日、ベネデッタには「聖痕」と呼ばれる傷があらわれ、イエスに娶(めと)られたとみなされて、新しい修道院長に就任。民衆には聖女と崇められる。圧倒的な権力を手にしたベネデッタの人生の末路とは…。

一糸まとわぬ姿でスクリーンを行き交う2人
鮮烈に描写される人間の本能に圧倒される

(c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA

決してわかりやすい映画ではない。また、型にハマったハリウッド大作が観客に強要するようなカタルシスも希薄だ。しかし、史実をモチーフにしていることもあり、キャスト陣の演技には凄まじい切迫感がある。切ない、悲しい、甘酸っぱいなど、紋切り型の言葉では形容できない、観る者を多様な感情で引き裂く作品だ。

物語の主軸を成すのは、奇跡を起こす少女・ベネデッタと、親兄弟から虐待を受け、修道院に逃げ込んだ末に、親から金銭で売られたバルトロメア。真逆の境遇で生まれ育った2人の女性が密かに愛を育み合うプロセスだ。

(c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA

とにかく強烈なのは、「ここまでやっていいのか!?」と驚かされる、女性2人の濃厚な情交シーン。ベネデッタ役のヴィルジニー・エフィラと、バルトロメア役のダフネ・パタキアはもちろん、熟練の演出力で両者の欲望がぶつかり合う、迫真の映像をものにしたポール・ヴァーホーヴェン監督に拍手を送りたい。思い返すと、ヴァーホーヴェンは『ショーガール』(1995)でも、女性が織りなすエロティック世界観を見事に造形していた。ベネデッタとバルトロメアの生々しい交情シーンは、物語が進むにつれて過激さを増していく。

(c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA

全編を通して、主役の2人が裸体をさらしている時間はとても長い。観る者は一糸まとわぬ姿でスクリーンを行き交う2人を観ていると、服を身にまとっていないことが当たり前に見えてくるから不思議だ。神に遣える修道女であろうが、奇跡を起こす者であろうが、本能を剥き出しにする人間の姿が鮮烈に伝わってくる。ポール・ヴァーホーヴェンが描きたかったのは、単純なエロティシズムではなく、赤裸々な人間の”魂”ではないだろうか。

(c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA

物語は次のように進展していく。彼女たちの秘められた関係は、元修道院長に性行為を目撃されたことで、衆目にさらされる。戒律を犯した2人は裁判にかけられ、バルトロメアは懲罰を受けることに。

(c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA

彼女に課された懲罰は拷問だ。拷問シーンがまたショッキングこの上ない。拷問器具が映し出され、修道院中に響き渡るバルトロメアの叫び声の凄まじさたるや、「演者であるダフネ・パタキアが本当に拷問されているのでは?」とあらぬ妄想を抱いてしまうほどだ。さらに、特筆すべき点は、「拷問をするためだけに作られた凶器」が修道院に常備されているという設定もさることながら、拷問されるバルトロメアの姿を一切映さずに、拷問器具を映したショットと叫び声だけで、恐怖を演出しているという点である。

(c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA

受難に見舞われるのはバルトロメアだけではない。本作ではベネデッタの受難も描かれている。ある日を境に彼女の体には、イエス・キリストが杭を打ち付けられた際に負った「聖痕」が刻印されていく。

(c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA

普段は優しい彼女だが、その日以降、何かが憑依したように、突然、悪魔じみた表情を見せ、邪悪な声色で罵詈雑言を口走る。このシーンにおけるベネデッタの豹変ぶりは、下手なホラー映画などよりも、観客の恐怖を煽り立てるだろう。

ぜひ息をひそめながら映画館の大きなスクリーンで鑑賞することをお勧めしたい、見応え抜群の一作だ。

(文・ZAKKY)

【作品情報】

(c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA

監督:ポール・ヴァーホーベン 脚本:デヴィッド・バーク、ポール・ヴァーホーベン 原案:ジュディス・C・ブラウン『ルネサンス修道女物語―聖と性のミクロストリア』
出演:ヴィルジニー・エフィラ、ダフネ・パタキア、シャーロット・ランプリング、ランベール・ウィルソン
[2021/フランス・オランダ/131分/R18+/原題:BENEDETTA]
配給:クロックワークス  (c) 2020 SBS PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA - FRANCE 3 CINÉMA
公式サイト

新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか 全国公開中

1 2