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映画『オマージュ』は面白い? 韓国映画界の実態を浮き彫りにする話題作。忖度なしガチレビュー《あらすじ 考察 解説 評価》

text by 柴田悠

アジア太平洋映画賞で主演のイ・ジョンウンが最優秀演技賞を受賞した映画『オマージュ』は3月10日(金)より公開スタート。映画監督として窮地に立たされた主人公が古い映画フィルムの修復を頼まれ、そこから自身と向き合う物語。実在の未発見フィルム作品から着想を得たという本作のレビューをお届けする。(文・柴田悠)

男性優位社会で苦悩する女性監督たち
物語を通じて韓国映画業界の実態を浮き彫りにする

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本作は、ある女性映画監督の姿を通して韓国の映画業界における女性の立場に迫った作品。監督は、『マドンナ』『ガラスの庭園』のシン・スウォン。主人公ジワンを演じるのは、『パラサイト 半地下の家族』の家政婦役でおなじみの韓国を代表するバイプレイヤーのイ・ジョンウン。夫役は『逃げた女』『あなたの顔の前に』といったホン・サンス監督作品の常連として知られるクォン・ヘヒョ。そして息子役にはドラマ『愛の不時着』で一躍スターダムにのしあがったタン・ジュンサンが演じている。

主人公・ジワンはヒット作に恵まれず新作を撮る目処も立たない女性監督。最近では親しいプロデューサーからも映画業界から足を洗うようアドバイスされたり、夫や息子からも愛想をつかされそうになるなど、不遇な状況におかれている。

そんな彼女のもとにある日、60年代に活動した女性監督ホン・ジェウォンによる『女判事』の欠落した音声を吹き込むという修復プロジェクトの仕事が舞い込む。二つ返事で引き受ける彼女。しかし、作業を進めていくうちにフィルムの一部が失われていることが判明し、彼女はホン監督の家族や関係者を訪ねながら真相を探っていく。そこから浮かび上がってくるのは、女性が不自由を強いられていた韓国映画界の実態だった。

彼女は、フィルムの修復を通じて自身の人生と向き合い、新たな一歩を踏み出していく。仕事での行き詰まりや家庭内の不和、経済的な困窮、老いによる健康不安…。本作ではクリエイターやアーティストが体験するさまざまな苦悩がこれでもかと描かれている。実際に表現を生業としている者であれば、身につまされること間違いないだろう。

そして本作では、こういった苦悩にプラスして、男性優位の映画業界で働く女性ならではの苦悩が描かれている。『女判事』の監督であるホン・ジェウォンの名前は映画史には刻まれていない。しかし、映画業界の中で懸命に生きようとした彼女の信念がジワンの背中を押す。

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