最終作にして最高傑作…シリーズファンが唸った仕掛けとは? 映画『MaXXXine マキシーン』考察&評価レビュー
『X エックス』『Pearl パール』に続く、A24製作による三部作の最終章『MaXXXine マキシーン』が公開中だ。本作は『X エックス』で描かれたテキサスでの凄惨な猟奇的殺人事件の現場から、ただ一人逃げのびた主人公マキシーンの6年後の物語である。作品の魅力を多角的な視点から解説する。(文・阿部早苗)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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作品全体に漂う1980年代の雰囲気
“私らしくない人生は受け入れない”。この一言に、マキシーン・ミンクスという女のすべてが凝縮されている。
1985年、ネオンと欲望が渦巻くハリウッドを舞台に描かれる本作は、タイ・ウェスト監督によるホラー・シリーズの最終章。狂おしいほどスターになりたい女・マキシーンの執念と狂気が炸裂する物語である。
本シリーズは『X エックス』(2022)から始まった。舞台は1979年のテキサス。ポルノ映画を撮影にやってきた若者たちが農場に暮らす老夫婦による惨劇に巻き込まれるスラッシャー作品だった。マキシーンは、そんな悪夢から唯一生き延びた若い女優であり、スター志望の野心家。その欲望は、惨劇の中でも決して消えることはなかった。
そしてシリーズ第2作『Pearl パール』(2023)は前日譚として、シリーズの根幹にある「夢」と「狂気」のテーマを掘り下げた。『X』で惨劇を引き起こした老婆・パールの若き日々と、彼女の映画スターになりたいという夢がどのように狂気へ変わったのかを描いた異色のゴシック・ホラーである。
そして新作『MaXXXine』では、『X』の6年後、1985年のロサンゼルスが舞台となる。当時の音楽、ファッション、ビデオ業界、ニュース映像などを巧みに取り込み、作品全体に80年代特有の空気感が色濃く漂うのが特徴だ。
現実と虚構の境界を曖昧化する演出とヒロインの主体性
マキシーンはポルノ女優から本物の女優への転身を目指し、ホラー映画『ピューリタンII』の主演オーディションに挑戦する。しかしその頃、ロサンゼルスの街では「ナイト・ストーカー」と呼ばれる実在の連続殺人鬼リチャード・ラミレズが暗躍。ニュースは連日、凄惨な事件を報じ、女性たちを震え上がらせていた。
作中では当時のニュース映像が挿入され、現実と虚構の境界を曖昧にする演出が際立つ。マキシーンが街を歩く背後にも「ナイト・ストーカー」の影がちらつき、不穏な緊張感が漂う。さらに、マキシーンの過去の事件に端を発する脅迫や仲間が無惨な姿で発見されるなど、彼女自身も次第に追い詰められていく。
だがマキシーンは怯まない。スターの座を手に入れるためなら、どんな犠牲も血も厭わない覚悟があるのだ。本作はホラーでありつつ、欲望と狂気のポートレートでもある。『X』で示した生存本能と野心は、今回はハリウッドという檻に真正面からぶつけられていく。
その姿は『Pearl』のパールとも呼応している。パールは夢破れて狂気に堕ちたが、マキシーンは社会の押し付ける女優らしさや業界のルールすらものともせず、自らの道を切り拓こうとする。シリーズを通じて浮かび上がるのは、スターになる夢の危うさであり、とりわけ、女性にとって時にそれが自己破壊か他者破壊の選択を迫るものであり得るという現実だ。
『MaXXXine』最大の斬新さは、ホラーというジャンルを借りつつ、女性による剥き出しの野心と狂気を描いている点にある。ただの被害者としてではなく、狂気すら利用して、主体的にスターという神話を作り変えていくマキシーンの姿が衝撃的だ。
理性と狂気がせめぎ合うミア・ゴスの表情に注目
筆者は本作を観終えて、シリーズ集大成としての高い完成度に深い満足感を覚えた。一本の映画としても評価できるが、『X』『Pearl』を経てきた過程があるからこそ、女性の欲望と狂気というテーマがここで見事に結実していることに感銘を受けた。
欲望と恐怖、成功への飢えとその代償を全身で受け止めながら、それでもなお前進し続ける女性を演じたミア・ゴスの演技は圧巻だった。『Pearl』における狂気を露呈させた演技とは対照的に、今回は狂気をその身に引き受けた者特有の成熟と静けさ、さらには美しささえも漂わせている。理性と狂気がせめぎ合う、彼女の表情ひとつひとつはきわめてスリリングであり、その危うさこそが、本作の最大の魅力のひとつと言えるだろう。
そして今回、物語の緊張感をさらに高めているのが豪華なキャスティングだ。ジャンカルロ・エスポジート、ケヴィン・ベーコン、エリザベス・デビッキ、リリー・コリンズといった実力派俳優たちが脇を固め、80年代のロサンゼルスに生きるさまざまな人間模様を濃密に描き出している。
【著者プロフィール:阿部早苗】
仙台在住の元エンタメニュース記者。これまで洋画専門サイトやGYAOトレンドニュースなど映画を中心とした記事を執筆。他にも、東日本大震災に関する記事や福祉関連の記事など幅広い分野で執筆経験を積む。ジャンルを問わず年間300本以上の映画を鑑賞するほどの映画愛好家
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