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「コーダ」に隠された意味とは〜演出の魅力

監督のシアン・ヘダー
監督のシアン・ヘダー【Getty Images】

本作は、2014年のフランス映画『エール!』を原作に、ろう者の家族を持つ少女を描いたコメディドラマ。監督はNetflix映画『タルーラ〜彼女たちの事情』のシアン・へダーで、女優で歌手のエミリア・ジョーンズが主演を務める。

『トガニ 幼き瞳の告発』(ファン・ドンヒョク監督/2011年)や『あの夏、いちばん静かな海。』(北野武監督/1991年)、『聲の形』(山田尚子監督/2016年)など、歴史上ろう者をテーマとした作品は数多く制作されている。しかし、本作は、「コーダ」を扱っている点で従来の作品とは一線を画している。

「コーダ(CODA/Children of Deaf Adults))」とは、耳が不自由な親のもとで育った子どものこと。彼らの中には、手話と音声言語の双方を操るバイリンガルとして、親と社会の仲介役を務める者も少なくないという。

本作の主人公ルビーは、長年耳が聞こえない家族の「通訳」を行っており、彼女自身もその立場を受け入れ続けてきた。しかし、「音楽大学に進む」という夢ができて以降は、徐々に家族の存在が負担になりはじめる。

近年、日本でも大きな社会問題になっているヤングケアラーが、本作でははっきりと描写されている。

さて、「コーダ」という言葉は、実はもう一つ意味を持っている。それは、「音楽の終結部」を指す音楽記号である。本作のラストでは、ルビーが恩師の指導や家族からの理解を経て、見事バークリー音楽大学に合格する。

「コーダ」という言葉には、自らコーダとしての人生に終止符を打ち、新たな楽章へと踏み出すルビーの姿も表しているに違いない。一方、原題に込められた深いメッセージを理解すればするほど、「あいのうた」という日本オリジナルの副題が蛇足に思えてくる。

本作の美点の一つは、過度な感傷性を抑えているところにある。「感動作」というイメージで売りたかったのはわかるが、邦題が意図するところと作品の実質は微妙にズレており、批判を受けても仕方がないだろう。

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