ホーム » 投稿 » 海外映画 » レビュー » PG12の理由は? 最後の手話も解説。アカデミー賞映画『コーダ あいのうた』タイトルに込められた深い意味とは…? » Page 4

障がい者を美化しないリアルな描写〜脚本の魅力

俳優のトロイ・コッツァー
俳優のトロイコッツァー第94回アカデミー賞よりGetty Images

障がい者を扱う作品が制作されると、必ずと言っていいほど注目を集めるトピックがある。それが「感動ポルノ」である。

「感動ポルノ」とは、障がい者を「真面目な努力家」というステレオタイプな描写に当てはめて美化し、観客の感動をいたずらに煽るような描き方のこと。日本では、毎年夏に開催される某国民的チャリティイベントの影響もあり、毎年のように議論に上がっている感がある。

「感動ポルノ」的な作品では、ハンディキャップを乗り越えようとする障がい者の努力がことさらにクローズアップされ、障がい者のリアリティが欠落してしまうことが多い。しかし、本作に登場する家族は、ろう者であるからといって美化されることなく、なんとも人間くさいキャラクターとして描かれている。

例えば、父親のフランクは、ルビーとの会話で平気にセックスの話を振り、娘の前で性病と診断されても、娘にセックスの様子を見られても全く意に介さない。母親のジャッキーも、健聴者である娘に嫉妬し束縛しようとするわかりやすい「毒親」である。

また、ルビーの兄レオもマッチングアプリで女性の品定めをし、挙げ句、楽しみを家族でシェアしてしまう。本作では、ともすればシリアスになりがちなこうした描写が、実にあっけらかんとユーモラスに描かれている。一方、性にまつわる強烈な描写が頻出するので、やりすぎな感も否めない。その辺りが、PG12に指定されている理由だろう。

とはいえ、なにより重要なのは、彼らがタフな漁師のコミュニティで生きる一市民であるということだ。過激であけすけな描写からは、監督であるヘダーの気概が感じられるのだ。

1 2 3 4 5 6 7