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ろう者の俳優による豊かな手話〜演技の魅力

エミリア・ジョーンズ(2021年の『コーダあいのうた』ロサンゼルス・フォトコールより)
エミリア・ジョーンズ(2021年の『コーダあいのうた』ロサンゼルス・フォトコールより)【Getty Images】

本作の演技の魅力といえば、なんといっても手話による演技だろう。世界に200あまりある手話だが、本作で採用されたのは「ASL(アメリカン・サイン・ランゲージ)」と呼ばれるもの。他の言語に比べて創造的な豊かさを持ち、感情を生き生きと表現できるという。

また、オリジナル版の『エール!』とは異なり、本作ではルビーの家族としてマーリー・マトリン、トロイ・コッツァー、ダニエル・デュラントと、実際に聴覚ハンディをかかえた俳優が出演し、豊かな演技を披露している。

ちなみに母ジャッキー役のマーリー・マトリンは『愛は静けさの中に』(1986年)で史上最年少でアカデミー賞主演女優賞を受賞している名女優である。

なお、ASLは独創性豊かなため英語への逐語訳が難しい。そのため、へダーはDASL(ディレクター・オブ・アーティスティック・サイン・ランゲージ)」を制作に導入。

DASLとは、「ASLマスター」とも呼ばれ、演劇の経験が豊富で、ろう文化や歴史を理解している人物のこと。作品の時代、地域、出演者の性別に応じて、どの手話が一番ふさわしいのかを決定する。本作では、自身もろう者で、俳優・ダンサー・監督として活躍するアレクサンドリア・ウェイルズがDASLとして制作に関わっている。

現場では、ウェイルズがモニターを見ながら細かい指示を出したり、動画で俳優にサインを送っていたりしていたという。本作で見られる手話による演技は、上記のような配慮のもとで成立しており、嘘のない表現として、観る者の心に訴えかける。

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