日本映画史上最もスッキリする結末は? 痛快なラスト(4)浮気男へ無言の制裁…大人のための“復讐エンタメ”
裏切り、挫折、不条理――そんな現実に打ちのめされる日々の中で、爽快な逆転劇や、努力が実を結ぶ瞬間を描いた映画を観ると、不思議と心が軽くなる。今回は、そんな爽快なラストを迎える、スカッとする日本映画を5本セレクト。笑って泣いて、最後には胸のつかえが吹き飛ぶような快感をくれる傑作を紹介する。※映画のクライマックスについて言及があります。未見の方はご留意ください。第4回。(文・阿部早苗)
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『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(2021)
監督:堀江貴大
キャスト:黒木華、柄本佑、金子大地
【作品内容】
漫画家の佐和子(黒木華)が描き始めた新作は、夫婦と不倫をめぐる物語。ところがその内容は、まるで自分たちの生活をそのまま切り取ったようなリアルさで、夫・俊夫(柄本佑)の浮気までもが詳細に描かれていた。物語が進むにつれ、俊夫は次第に現実と虚構の境界を見失っていく——。
【注目ポイント】
結婚5年目の漫画家夫婦。夫は担当編集者との不倫に走り、妻はその事実に気づきながらも知らぬふり。しかし、ある日妻が描き始めた新作漫画の内容に、夫は凍りつく。「浮気に気づいた妻が、復讐のために教習所の先生と関係を持つ」という展開が、あまりにもリアルだったからだ。
映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は、妻が「怒鳴る」「責める」といった感情の発露ではなく、“創作”というフィクションを通して静かに追い詰めていくという、知的かつ痛快な心理戦を描いた作品だ。佐和子を演じる黒木華は、感情を押し殺したまなざしの奥に確かな怒りを秘め、終始不穏な空気を漂わせる。一方、俊夫役の柄本佑は、焦りと後悔、猜疑心の間で揺れる男の情けなさをリアルに体現している。
最大の見どころは、夫が佐和子の漫画に動揺し、翻弄され、疑心暗鬼になっていく過程。その疑念が膨らむにつれ、観客自身も「これは創作なのか、それとも現実なのか」と翻弄されていく構造が巧妙だ。
スカッとする爽快感の裏に、静かにじわじわと効いてくる“ゾクッ”とする感覚もあり、ただの浮気劇では終わらない深みがある。怒りを声ではなく筆に乗せて描ききった佐和子の知略に、思わず拍手を送りたくなるだろう。
浮気男への無言の制裁を見届けたいあなたに——。静かで鋭い復讐劇がここにある。
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【了】