改変が天才的…最も成功した「短編小説の映画化」(5)日本が世界に誇る文豪の力作をアレンジ…成功の秘密は?
人気小説を原作とした映画は数あれど、原作の魅力を損なわず1本の映画として新たに再構成するのは案外と難しい。そこで今回は、人気エンタメ小説の実写化に成功した映画を5本セレクト。なかでも短編小説や群像劇を主体とした名作にフォーカスしてご紹介する。(文・ばやし)
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50ページ余りの短編を3時間近くの長尺で描いた
『ドライブ・マイ・カー』(2021)
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介、大江崇允
キャスト:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン、ペリー・ディゾン、アン・フィテ、安部聡子、岡田将生
【作品内容】
舞台俳優の家福(西島秀俊)は脚本家の妻と幸せに暮らしていたが、ある日、彼女は突然この世を去ってしまう。妻を亡くした喪失感に苛まれていた家福は、とある演劇祭で演出を担当することになり、愛車の運転を任せる専属ドライバーとして現れた渡利みさき(三浦透子)と出会う…。
【注目ポイント】
日本でもっとも名の知られた作家であろう村上春樹だが、映画化作品はそう多くない。著名な長編では「ノルウェイの森」が2010年に映画化されているものの、彼のストーリー性を極力省いた世界観や現実と想像の境目をシームレスに描く作風を映像作品へと落とし込むのは非常に困難と言える。
しかし、そんなネガティブな声を吹き飛ばすかのように、2021年に実写映画化されて大ヒットを記録したのが、濱口亮介監督がメガホンをとった『ドライブ・マイ・カー』だ。
原作「ドライブ・マイ・カー」は、短編集「女のいない男たち」に収録されている中のひとつ。短編集の一編が映画化されることは、実はそれほど珍しいことではないが、本作において特筆すべきは、文庫にして50ページほどのストーリーにもかかわらず、3時間近くにわたる長尺で描いていることだ。
だからといって原作をただただ引き伸ばしているわけではなく、言葉の温度感や静けさはそのままに、同短編集に収録されている「シェラレザード」や「木野」の要素を盛り込みながら、ストーリーには大幅な改変が加えられている。
さらに、小説で読んでいたときには気づけなかった、登場人物たちの人間味や心の底で溜まっていた想いを掬いだし、家福(西島秀俊)やみさき(三浦透子)、高槻(岡田将生)に対して思いがけない愛着を抱かせる。
原作でも同様に言及されるチェーホフの演劇『ワーニャ伯父さん』が、映画ではどのように物語へと組み込まれているかは、ぜひ実際に映画を観て確かめてほしい。
(文・ばやし)
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【了】