映画『終わりの鳥』が描く〈誰も死なない世界〉の異常性とは? 評価&考察レビュー。ダイナ・O・プスイッチのデビュー作を解説

text by 青葉薫

“死”という概念を独創的な映像表現で視覚化した映画『終わりの鳥』が現在公開中。本作は、病気の少女とその母親が奇妙な鳥との出会いを通して、間もなく訪れるであろう別れを受け止めていく姿をユーモアを交えながら描いた作品。今回は、そんな本作の魅力を紐解いていく。(文・青葉薫)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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【著者プロフィール:青葉薫】

横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。
 

“死”を見つめてきた「終わりの鳥」の言葉

映画『終わりの鳥』
©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTINGCORPORATION 2024

 

 眼球に地球を宿した鳥が耳元で囁く。

「誰も死から逃れることはできない」

 確かにそれは紛れもない真実だ。だが、彼の言葉にはこの星で無数の死を見つめてきたからこその深い絶望が漂っている。1日に100種の、1年で4万種の生物が連鎖的に絶滅していること。戦争や犯罪、貧困によってまだ死ななくていいはずの命の火が数多く消えていること。地獄のような現実に日々立ち会いながら、一度も救うことができない自分に対する虚無感。鳥の貌をしたペシミスト。それを体現しているかのような彼の名は〈DEATH〉。人は彼のことを「終わりの鳥」と呼ぶ。
 
 クロアチア出身の新鋭ダイナ・O・プスイッチが監督・脚本を手掛けた長篇デビュー作『終わりの鳥』。奇想天外でありながら、普遍的な人生の物語になっている。
 

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