史上最恐の「日本のヤバい村」映画は? おぞましい怪作(3)歯を折るシーンが壮絶…本当にあった村の怖い掟
日本映画には、村を舞台に、見過ごされがちな社会の不正や陰湿な風習、閉鎖的なコミュニティが引き起こす恐怖を描き出した「村系ホラー」というジャンルの作品がある。今回は、そんな「ヤバい村」を舞台にした映画をセレクト。異質な空間に潜む人間ドラマを紐解きながら、5本紹介する。第3回。(文・阿部早苗)
——————————
村の厳しい掟と母親への愛に翻弄される
『楢山節考』(1983)
監督:今村昌平
脚本:今村昌平
原作:深沢七郎
出演者:緒形拳、坂本スミ子、左とん平、あき竹城、小沢昭一、常田富士男
【作品内容】
信州の寒村では、70歳を迎えた老人が冬に楢山へ行く掟があった。貧しい村の未来を守るための習わしであり、それは死を意味する。そんな掟を69歳のおりん(坂本スミ子)は、恐れずに受け入れているが、母思いの辰平(緒形拳)は妻を亡くした寂しさも抱え辛い心情に揺れていた。
【注目ポイント】
緒形拳が主演を務め、日本映画としては、衣笠貞之助監督『地獄門』(1953)、黒澤明監督『影武者』(1980)に続く3度目となるカンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)に輝いた本作。原作は「風流夢譚」をはじめ、数々の問題作を世に問うてきた文豪・深沢七郎。1958年と2011年にも映画化された「姥捨て山」を題材にした古典である。
長野県の姨捨山にまつわる話が有名だ。貧しい農村では食糧不足のために口減らし(経済上の理由から養うべき人数をへらすこと)が必要とされ、老人を山に捨てるという風習を持つ村が実際にあったという
物語は「楢山まいり」目前で運命を受け入れている母・おりんと母への愛情と掟との間で葛藤する辰平(緒形拳)の姿に焦点を当てつつも、結婚できない辰平の弟や盗みを働いた一家など、この村の厳しい掟を破った者たちの末路も描いている。
本来なら働き者の元気な老婆は称賛されるべき存在であるが、この村では老いると口減らしのために山へ行かなくてはならない。それは死に値する。この掟を受け入れているおりんが、丈夫な歯を持つことを恥じて自ら歯を折るシーンに心が痛む。
このシーンのために、おりん役の坂本スミ子は前歯を4本抜いて挑んでいるのだが、実は1958年に公開された同名映画で同役を演じた田中絹代も歯を抜いており、両人の女優魂には頭が下がる思いだ。
とはいえ、「楢山まいり」は単に人道に反した風習ではない。村を存続させるためののっぴきならない選択であり、老人が最後の務めを果たし、若者が生き延びるための、命のバトンタッチという側面を持っている。言葉無き母と息子の別れを描くラストシーンの痛切さは一度観たら決して忘れることはできないだろう。
(文・阿部早苗)
【関連記事】
史上最恐の「日本のヤバい村」映画は? おぞましい怪作(1)
史上最恐の「日本のヤバい村」映画は? おぞましい怪作(4)
史上最恐の「日本のヤバい村」映画は? おぞましい怪作(全紹介)
【了】