桁外れの面白さ…『鬼滅の刃』無限城編、大人も熱狂する理由とは? 第一章のスゴさを解説&評価レビュー【ネタバレ】

text by 望月悠木

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開中。「無限列車編」を大きく上回る滑り出しで、その注目度は衰え知らず。今なお勢いを増す「鬼滅の刃」ブームを引き起こす要因とは一体何なのか? 最新作「猗窩座再来」から考察してみよう。(文・望月悠木)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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「どうせテレビでやるでしょ」はもったいない!

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 7月18日(金)に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の勢いが止まらない。中には1日に約40回も上映する劇場があるほど、その熱狂ぶりはまさしく“国民的アニメ”と呼ばれるにふさわしい。その人気を支えるのは、子ども層だけでなく、大人たちをも巻き込む圧倒的な吸引力にある。

 正直に言えば、筆者自身もこれまで「どうせテレビで見られる」と高を括っていた一人だ。『無限列車編』(2020)も、映画館では観ていない。だが今回、初めて劇場で『鬼滅の刃』を体験して、「なぜこれを映画館で観るべきなのか」が痛いほどわかった。

 無限城に落下する炭治郎たちの描写は、まるでアトラクションに乗っているかのような臨場感だ。巨大スクリーンだからこそ伝わる没入感は、もはや物語を“観ている“というより“体験している“に近い。技を繰り出す際の音響、スクリーンを覆う激しい戦闘描写、すべてがテレビの比ではない。「観に来てよかった」と心から思えた。

単純明快なストーリー構造

『鬼滅の刃』
ufotable公式Instagramより

 シンプルな構図が大人を引き込む物語が大人の心にも届く理由として、「単純明快なストーリー構造」も挙げたい。

 現代人は日々情報にさらされ、複雑な展開や登場人物に疲れてしまうこともある。そんな中、『鬼滅の刃』は鬼殺隊vs鬼という明快な対立構造を貫いており、“わかりやすさ“がストレスにならない。

 たとえば、鬼の首領である鬼舞辻無惨直属の配下である“十二鬼月”の下弦メンバーが描かれたと思いきや、無惨の独断で大半が処刑されてしまう展開などは、ストーリーを引き延ばさない潔さがある。「引っ張らない」のもこの作品の魅力だ。余計な枝葉を排したテンポ感が、大人にも優しい。

 物語が進むごとにキャラクターがどんどん増えていくのは長期連載漫画の常だ。だが、『鬼滅の刃』では、味方陣営の“柱”は9人。対して鬼陣営は、無惨の“パワハラ会議“で整理されたことにより最終的に8人程度に落ち着いた。

 これが実にありがたい。複雑な人間関係を追いきれずに離脱してしまうことが多い中、本作は「覚えるべき顔ぶれ」が明確で、物語の本筋に集中できるのだ。

共感を誘う“敵”

『鬼滅の刃』黒死牟
ufotable公式Instagramより

 そして、『鬼滅の刃』の特筆すべき点は、敵キャラクターたちの過去や心情が丁寧に描かれている点にある。今作でスポットが当たった上弦の参・猗窩座の過去。盗みに手を染めた動機、愛する者の喪失——彼の鬼としての生き方は、人間だった頃に味わった悲劇と孤独の積み重ねの末にある。

 もし彼が鬼にならずに道場の後継者となっていたら、柱として無惨に立ち向かう存在になっていたかもしれない…。そんな“もしも“を想像させる余地があるからこそ、彼の一挙手一投足が切ない。悪に落ちた理由が他人事ではなく感じられる点に、大人は心を揺さぶられるのではないか。

 今作で、新たな上弦の陸として登場した獪岳もまた共感を誘う敵キャラの一人だ。弟弟子の善逸ばかりが評価されることへの嫉妬心、「努力が報われない」という怒りが、やがて彼を破滅へと導いてしまう。

 職場や家庭、あらゆる場面で「正当に評価されていない」と感じたことがある人間にとって、獪岳の感情は他人事ではない。一歩踏み違えれば、誰もが彼のような“鬼”になる可能性を秘めている。そう思わせてしまう描写が、この作品のリアルな魅力だ。

一番グッときたのは“名もなき隊士“たち

胡蝶しのぶ『鬼滅の刃』
ufotable公式Instagramより

 そして、筆者が本作で最も胸を打たれたのは、名前すら明かされない隊士たちの姿だった。戦力の要である柱たちを温存させるために時透無一郎・悲鳴嶼行冥の盾となって鬼に立ち向かう彼ら。そして獪岳と激戦を終えた善逸を救助する愈史郎を守るために水の呼吸を放つ村田——こうした脇役たちの勇気が、本作の世界に深みを与えている。

 彼らは鬼に太刀打ちできるほどの力がなくとも、己にできる役目を果たそうとする。その姿に、「正義とは何か」「強さとは何か」という問いが静かに響いてくる。炭治郎や柱たちの派手な戦いだけでなく、敵の過去、名もなき者の勇気までもが丁寧に描かれている本作。

 今、子どもたちが熱中している『鬼滅の刃』は、大人になった時にまったく異なる角度で見直される作品になるかもしれない。その普遍性こそが、今なお『鬼滅の刃』のブームが終わらない理由であり、これからも色褪せない魅力なのだと感じた。

【著者プロフィール:望月悠木】

フリーライター。主に政治経済、社会問題、サブカルチャーに関する記事の執筆を手がけています。今知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けています。(旧Twitter):@mochizukiyuuki

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【了】

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