八木伶音「ビジョンを持って現場で再現していく」芋生悠「自分と人を大切に」映画『ROPE』スペシャル対談インタビュー

text by 福田桃奈

俳優・モデルの樹を主体に、八木伶音が初の長編監督・脚本を務めた映画『ROPE』が、7月25日(金)より公開となる。今回は、本作にて監督を務めた八木伶音さんとヒロイン・小川翠役の芋生悠さんに独占インタビューを敢行。映画製作や作品に対するそれぞれの想いなど、たっぷりとお話しを伺った。(取材・文:福田桃奈)

芋生「今この瞬間にしか救えない時を共有していく」
明けない夜を彷徨う人々

芋生悠 写真:Kazeho
芋生悠 写真:Kazeho

ーーーあらすじは、ゆるやかにディストピア化していく社会に生きる主人公・平岡修二は、一ヶ月前に失業してから不眠症に悩まされていた。そんな中、悲しい過去を持つ小川翠と出会い、お互い対話を通して、微かな希望の光が差し込む物語。不思議な作品で、どんどんのめり込んでいきました。主演を務めた樹さんとの共同企画だそうですが、企画の経緯から教えてください。

八木伶音監督(以下:八木)「樹から『一緒に映画を作ろう』と声を掛けてもらって、2人で企画書を書きました。脚本の原型は僕が書いて、樹と何度も打ち合わせをしながら肉付けしていきました」

ーーー修二は不眠症に悩まされていますが、明日への不安を無意識に感じている象徴のように感じました。物語の着想について教えてください。

八木「僕自身も不安な夜は眠れないことがあったので、眠れない夜に街を歩いていると、壁に尋ね人の張り紙が貼ってあるというロードムービーのようなイメージがありました。小川翠以外のメインの3人は、自分が抱えている不安や思いを投影したキャラクターですが、翠の人物像は友人や実際の事件から着想しました」

ーーー芋生さんはヒロイン・小川翠役を演じられていますが、脚本を読んでみていかがでしたか?

芋生悠(以下:芋生)「人との距離感が独特で面白いなと思いました。群像劇のロードムービー要素はあるけれども、人と人がぶつかり合って成長していくような物語ではなく、家族や友人には言えないことを会ったばかりの人に打ち明けるような、今この瞬間にしか救えない時を共有していくというところが面白いと思いました」

ーーー修二と翠は恋人になるわけでもなく、絶妙な距離を保ったままお互いを共有していきます。その距離感の感覚や、どのように役作りをされましたか?

芋生「翠の人物像について結構悩んだんですけど、修二との会話にヒントがあるだろうと思い、ガチガチに役作りしていくよりかは、会話をする中で探っていこうと思いました。

距離感については寂しさみたいなことかなと思います。大人になると、打ち明けられない壁が常に付き纏ってくると思うんです。特にコロナ禍以降、当時学生だった子たちは、より人との距離感が難しくなっているのではないかと感じます。それは私にも弟がいるので余計に思うところなんです。そういうどうしようもない寂しさが自分を苦しめたりすると思うので、樹さん演じた修二と翠との出会いは大事にしました」

ーーー修二と会話する中で、どんなことを感じましたか?

芋生「やっぱり修二とのシーンが1番記憶に残っていて、まるで自分の体も解れていくような不思議な感覚でした。修二は翠の人生において、欠かせない存在ではないかもしれないけど、あの瞬間の翠にとっては必要な人だったのだろうなと思いました」

八木「陰鬱になりすぎないようにしたかった」
シリアスな題材をユーモラスに

八木伶音監督 写真:Kazeho
八木伶音監督 写真:Kazeho

ーー終盤のシーンで、翠は姉に笑顔を向けますが、その表情にゾッとしました。どんなことを思いながら演じていましたか?

芋生「私にも姉がいるのですが、仲がいいですし、お互い想い合っているんですけど、面倒を掛けたくないっていうのもあって、大事なことはあまり共有しないところがあるんです。でも本当に大事なことを共有した時に、1番ポロッと本質的な部分が出るのかもしれないなと。それは実際に演じてみて感じました」

ーーー随所で、修二の首にロープが巻き付くインサートがありました。不気味でありながら、作品に引き込まれる要素の一つでした。タイトルにも『ROPE』とありますが、モチーフについて教えてください。

八木「ロープのモチーフは何個かあって、修二が無職で何もやることが無い時に、働かないといけないと思っていることや、お金が無い時の焦燥感で首が締まっている。また修二は、母親が首を吊ろうとしていた光景を覚えており、不安な気持ちをロープで表現しています。あとは赤ちゃんの臍の緒がロープに見えるようになっていたりと、直接的ではあるんですけど、感じない程度に印象深く映したいと思いました」

ーーーカメラアングルもとても面白く、ディストピア化された歪んだ世界をダッチアングルによって表現していると思いました。カメラマンとはディスカッションをされましたか?

八木「撮影を担当した遠藤匠とは大学の時から一緒に映画を作ってきた仲間で、企画の段階から話し合いました。夜の街を印象的に撮りたいと思っていたので、手持ちではなくフィックスをメインに撮影することにしました」

ーーー全体的にホラー的でもあり、またコミカルさも感じました。特に、大東俊介さん演じたサラリーマンの大林達也が日々に鬱屈を感じている様は、ユーモアとリアリティに溢れ大変面白かったです。

八木「陰鬱になりすぎないようにしたかったので、修二が取る何気ない行動でも笑ってほしいなと思ってました。大東俊介さんに演じていただいたサラリーマンには、バリバリ会社員として働いている大人の疲労感を色っぽく出したいと思いました。ロケ地も異質なところを選び、少し変わった場所で疲れたサラリーマンがいる。ここも笑って欲しかったポイントです」

ーーー芋生さんは、翠を演じてみて気付いたことはありましたか?

芋生「ずっと夜が明けないような感覚って、私も20代前半頃に感じていました。眠れない夜が沢山あったし、誰かがそばにいて越えられるものではないかもしれないけど、でも結局1人は寂しい。

人と出会うことで悩みも増えるし大変なんだけど、自分は常に社会の中にいる。人と出会って悩んで、そして自分のことを愛してあげることで、誰かに掛けた言葉がその人の救いになるかもしれない。

だからこそ、常に発する言葉やエネルギーは優しいものでありたいと思いました。そんな生き方を考えさせられる機会だったなと感じます」

芋生「色んな人と出会い、自分を人を大切に」
本作が伝えたいテーマ

左から芋生悠、八木伶音監督 写真:Kazeho
左から芋生悠、八木伶音監督 写真:Kazeho

ーーー修二は、誰もが心を許せてしまうようなキャラクターですが、樹さん自身にもそういった側面がありましたか?

八木「修二ほど破天荒ではないんですけど、コミニケーション能力が高く、友達も多いですね。脚本の話し合いをした時や現場でも言語化する能力がしっかりとしていて、ロジカルだと思います。修二とは正反対なキャラクターでありながらも、人と自然に距離を縮められるという点では重なります」

芋生「本当に気遣いのできる方で、柔らかで、それ故に沢山人が集まってくるような方です。飄々としていて、常に佇まいが変わらなかったので、安心感がありました」

ーーーお2人は今回初めてタッグを組まれたと思いますが、八木監督から見た芋生さんはどんな方ですか?

八木「かねてより映画を拝見させていただいており、いつかご一緒できたら幸せだなと思っていました。本作の企画書と脚本をお送りさせていただいたんですけど、初めてお会いした時に感想を言ってくださったのには感動しましたし、凄い人格者だなと思いました。今回は撮影も少人数で、同世代ばかりの距離感の近い撮影だったのですが、とても楽しんでくださり有難かったです。

現場で芝居や脚本についてお話をした時も、演じるキャラクターを立体的に見ている印象を受け、改めて凄い役者さんだと思いました」

ーーー芋生さんは、これまでに様々な役をやられてきましたが、演じる時に大切にしてることはありますか?

芋生「最近はあまり用意しすぎず、監督やその場の役者さんとの、その時のフィーリングを大事に演じています。以前は、考えたものを現場に持ち込んでいましたが、想像していたロケ地と違ったり、全く違うシチュエーションだったりすることがあり、そうした時に私は不器用なのでテンパってしまうタイプなんです。自分を分析すると、持ち込まずにやる方がいいのかもしれないと気付きました」

ーーー八木監督の監督としてのこだわりや大切にしてることはありますか?

八木「僕は、脚本の段階で画やイメージを固めてることを大事にしてます。カメラワーク含め、しっかりとビジョンを持って、それを現場で再現していくイメージです」

ーーーちなみにお2人はどんな映画が好きですか?

八木「アメリカン・ニューシネマが好きで、マーティン・スコセッシ監督作品や、バディムービー、あとロードムービーが好きです。今回もこの辺りの映画をやろうと思っていたのですが、特に『ミーン・ストリート』(1973)には影響を受けているかもしれないです。バディムービーなんですけど、借金によって首が回らなくなったロバート・デニーロ扮する男を、ハーベイ・カイテル扮する兄貴分が面倒を見るというような物語です」

芋生「私はずっとウォン・カーウァイの『ブエノスアイレス』(1997)が好きです。あとは、岩井俊二さんの『PiCNiC』(1996)もめっちゃ好きです。1本に映画の良さと登場人物たちの人生が詰まっていて、映画ならではの空気感がとても好きですね」

ーーー最後に、本作をこれから観る方にメッセージをお願いします。

八木「説教臭くない作品ですし、観た後に登場人物について話をしたくなるような部分があると思うので、共感したり語っていただけたら嬉しいです」

芋生「若者たちを中心に、現代社会にも通ずるような若者の貧困や断絶をテーマに、1人1人が息づいている作品なので、是非若い方に観ていただきたいですし、大人の方にも観ていただきたいです。

年齢を重ねるごとに生きづらさは色んなベクトルに向かっていくと思うんですけど、根本は変わらないと思うんです。色んな人と出会い、自分を人を大切にしたら、きっと何かが解消されていくと信じているので、是非色んな世代の方に劇場で観ていただきたいです」

ヘアメイク:村宮有紗 
スタイリスト(芋生):澪 

(取材・文:福田桃奈)

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【了】

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