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実話の方がやばすぎて怖い…実在の殺人事件がモデルの日本映画(4)クズの母親が…演者もキレた最低の毒親とは?

text by 寺島武志

胸が張り裂ける感覚に陥る、重くて暗い「後味が悪い」映画。出演している役者に感情移入してしまうと、嫌悪感を抱くことも少なくはない。しかし、作品のモチーフとなった事件では、さらに残忍で恐ろしいものが数多く存在する。今回は、実話の方が怖い日本映画を5本、作品の魅力や俳優の迫力と共に、実際の事件も紹介する。(文・寺島武志)

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長澤まさみ「最後まで共感できない役は初めて」

『MOTHER マザー』(2020)

長澤まさみ
長澤まさみGetty Images

上映時間:126分
監督:大森立嗣
脚本:大森立嗣、港岳彦
キャスト:長澤まさみ、奥平大兼、阿部サダヲ、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、土村芳、荒巻全紀、大西信満、木野花、郡司翔、浅田芭路

【作品内容】

ろくに仕事もせず、男にだらしない母・三隅秋子(長澤まさみ)のもとで育った少年・周平(奥平大兼)。妹も生まれたものの、一家で場所を転々としながら貧しい生活を送る。

閉じられた世界に生き、歪んだまま成長した周平は、秋子の両親を殺害し、金を奪う。それを裏で糸を引いていたのはなんと母の秋子だった。2人はすぐに逮捕されたが、秋子は殺人を指示していないと言い張り、周平に罪をなすり付ける。

それでも周平は、唯一の身内である秋子をかばうように、弁護士にも「全て僕がやりました。お母さんの指示ではないです」と語る。しかし秋子の指示であることが明るみになり、懲役2年6月、執行猶予3年の刑を受けることになる。

逮捕後も秋子は開き直り「自分の子どもを自由にして何が悪い」と悪態をつくばかり。結局、奪った金もパチンコで使い果たす始末だった。

【注目ポイント】

今作のモチーフとなったのは、当時17歳の少年が祖父母を刺殺した「川口高齢夫婦殺害事件」(2014年)。少年は犯行後、施錠をして逃亡するなど、身内の犯行を伺わせる非常に短絡的な事件だった。

裁判においては、実行犯の少年の情状酌量が争点となったが、その不幸な生い立ちや、精神鑑定で「学習性無力感の状態」という結果が出たものの、無期懲役の求刑に対し、懲役15年の判決が下った。

一方で、さいたま地裁は、母親の責任の重さも指摘し、強盗と窃盗罪で、懲役7年の求刑に対し、懲役4年6月の判決を下した。

昭和の時代から、こうした「毒親」は存在していたが、2000年以降、様々なジャンルで「毒親もの」がブームとなる。しかしながら、毒親の概念は未だはっきりせず、行政や警察の介入にも限界があるため、こうした問題への対処法は確立されないまま、現在に至っている。映画『MOTHER マザー』は、まさにそうした状況に一石を投じる作品となっている。

インタビューで「最後まで共感できない役は初めて」と語った長澤まさみ。映画では、奥平大兼演じる少年が殺人に手を染めるにあたって、澤演じる母親の教唆が強調されている。彼が母の言うことを聞き続けていた理由は、妹が人質になっていたからに他ならない。母親は新たに生まれた娘も育児放置し、兄である周平がほとんど親代わりをしていたのだ。

もしも母親から逃げたら、妹がどうなってしまうのか。そうした恐れと責任感から、少年は母親の言いなりになるしか道はなかった。それでも裁判で母親を庇うのはなぜなのか。モチーフとなった事件の内容を踏まえた上で観るとまた違った見え方ができるかもしれない。

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