「血」という名の宿痾―
絶望と狂気を逡巡する菅田将暉の眼差し
『共喰い』(2013)
R15+指定
監督:青山真治
原作:田中慎弥
脚本:荒井晴彦、青山真治
出演:菅田将暉、光石研
【作品内容】
昭和63年の夏、山口県下関市。高校2年の遠馬(菅田将暉)は、父親(光石研)とその愛人と暮らしていた。
戦争で左手を失った父は普段は明るいが、セックスのときに相手を殴る性癖があり、遠馬も嫌悪感を抱いていた。実母(田中裕子)もそんな父に愛想を尽かし、川向こうで魚屋を営んでいた。
そんな中、遠馬は、幼なじみの千種(木下美咲)とのセックス中に思わず千種の首を絞めていることに気づいてしまう。遠馬は、千種たちを守ろうとしながらも、自身に流れる父の血を否応なしに自覚するー。
【注目ポイント】
歌手として俳優として、八面六臂の活躍を繰り広げる菅田将暉。そんな彼が世間の注目を集めるきっかけとなった作品が、この『共喰い』だ。
原作は芥川賞を受賞した田中慎弥の同名小説。監督は『EUREKA』(2001)や『東京公園』(2011)で知られる青山真治で、脚本は『Wの悲劇』(1984)の荒井晴彦。キャストには、菅田のほかに光石研や田中裕子ら実力派が名を連ねる。
本作の魅力は、なんといっても主演の菅田の演技だろう。オーディションを受ける際、「これはやらなきゃ!」と思っていたという菅田。諦観と狂気が入り混じったその眼差しは、菅田でしか表現できないものだ。
そして、もう一人忘れてはならないのが、遠馬の実母役の田中裕子だ。『おしん』(1983)や『天城越え』(1983)など、さまざまな作品で見事な演技を披露してきた田中。本作でも観客の魂を揺さぶるような凄みのある演技を披露している。
なお、主演のオーディションには、2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』で主演を務める仲野太賀も参加していたという噂がある。菅田を仲野に脳内変換しながら読んでみるのも面白いかもしれない。