原爆で亡くなった父親が幽霊として現れる
『父と暮らせば』(2004)
監督:黒木和雄
脚本:黒木和雄。池田眞也
出演:宮沢りえ、原田芳雄
【作品内容】
1945年8月6日、午前8時15分。広島に原爆が投下され、一瞬のうちに多くの人の命が奪われた…。
その3年後の広島で、図書館で働く美津江(宮沢りえ)は、愛する人を失って自分が生き残っていることに負い目を感じながら、ひそやかに過ごしていた。
ある日、彼女の前に青年・木下(浅野忠信)が現われ、2人は互いに惹かれるが美津江は、その気持ちを抑えつける。
そんな折、美津江の木下への恋心から生き返った父の竹造(原田芳雄)が現われるのだが…。
【注目ポイント】
井上ひさしの同名戯曲を基に『美しい夏キリシマ』(2002)、『紙屋悦子の青春』(2006)の黒木和雄監督が映画化した作品である。
1948年の夏のある日、1945年の広島の原爆で亡くなってしまった父・竹造が、娘の部屋に霊となって現われて、美津江と会話をする。じゃこ味噌の作り方を教えたり、恋の話をしたり。
竹造はささやかな会話をかわしながら、「私はしあわせになってはいけない」と、原爆の悲惨な記憶がトラウマになっている娘・美津江の負い目を解きほぐしていくのである。しかし、美津江の心は、閉じたままだ。
原爆投下後に、父の代わりに自分が生き残ってしまった事実、美津江が知った数々の悲惨な話。それら苦しい思いを抱えながら、3年間を過ごしてきた経験が、美津江の”幸せになってはいけない気持ち”をさらに深くしてしまっているのである。それでも、美津江に幸せになってほしい竹造は、こう言う。
「お前は、なんどもわしの火を取り除こうとしてくれた。ありがとう」
「親孝行のために早く逃げろ! と言ったのはわしだ。双方納得づめの結果なんだ。お前はわしに生かされとるんじゃ。だから幸せになれ」と。
死んでもなお、子どもに幸せになってもらいたいと思う、普遍的な愛が示される場面である。
美津江は、竹造のその思いを受け取り、幸せになる一歩を歩もうとするのだ。その気持ちを感じ取った竹造は、明るく姿を消していく…。戦後80年の今年、本作を鑑賞することで改めて平和の意味を考えたい。