少女から犯罪者になるまでの阿部定を演じる
黒木瞳『SADA〜戯作・阿部定の生涯』(監督:大林宣彦、1998)
1990年代、映画『失楽園』(1997)でセンセーショナルな役柄により、世間からの注目度が一気に高まった黒木瞳。それまで上品で清楚なイメージが強かったが、『失楽園』に続き、情熱的な女性を演じたのが「阿部定事件」を題材にした『SADA~戯作・阿部定の生涯』だ。
阿部定事件とは、1936年(昭和11年)5月、元芸者であり、遊女としても働いていた阿部定が、愛人の石田吉蔵を殺害して、その局部を切り取った事件のことである。ちなみに、大島渚監督の映画『愛のコリーダ』(1976)も同事件をモチーフにしている。
大島とはスタイルの異なる大林宣彦が監督した本作は必ずしも史実に忠実というわけではなく、フィクションを交えながら、阿部定が、片岡鶴太郎演じる愛人・喜久本(と名前が変えられている)と出会うまでの人生を映し出す。やがて定は、男と激しく愛し合い、情欲と狂気の果てに彼を殺害し、その局部を切り取るという衝撃的な事件を引き起こす。
本作は単なる事件の再現ではなく、大林監督らしい幻想的な演出を交えながら、阿部定の愛と狂気、彼女が生きた時代の息苦しさを描き出している。
そんな定を演じた黒木の芝居には見応えがあり、映画全体を牽引する活躍を見せているが、過激な濡れ場が抑えめだったからか、「『愛のコリーダ』再び」を期待していた一部のファンからは「期待はずれ」と酷評する声も上がったようだ。
14歳の定までも自ら演じた黒木は当時30代。14歳の役にはあえて触れないが、妖艶な姿に成長していく姿はとても美しい。