戦後最大の殺人鬼の生涯を貫禄たっぷりに再現
ビートたけし『昭和四十六年、大久保清の犯罪』(TBS系、1983)
戦後最大と言われる連続女性誘拐殺人事件である「大久保清事件」をご存知だろうか。犯人は、昭和46年、わずか2か月足らずの間に8人の女性に対して性的暴行を働いたのちに殺害した、正真正銘の鬼畜である。この事件をTBSがドラマ化したのが『昭和四十六年 大久保清の犯罪』だ。
昭和46年5月、大久保(ビートたけし)は芸術家になりすまし、絵のモデルを餌に宏子(手塚理美)を誘い出して殺害。婦女暴行の容疑で逮捕される。刑事の取り調べが始まると、事件のみならず大久保の複雑な家庭環境も明らかになっていく。
この凶悪犯・大久保清を演じているのがビートたけしだ。放送当時は漫才ブームでもあり、『オレたちひょうきん族』(1981年~1989年放送)をはじめとしたバラエティー番組を中心に活動していた。しかし、世紀の凶悪犯を単なる極悪人ではなく道を踏み外した一人の人間として捉えるこのドラマで、たけしは大久保の人間臭い面も見事に演じ、卓越した芝居の実力を世間に知らしめた。
映画『その男、凶暴につき』(1989)で監督デビューをして以降、暴力的で虚無的な役柄を多く演じてきたたけしだが、そうした傾向は80年代から顕著であった。
他にも「豊田商事会長刺殺事件」をモデルにした映画『コミック雑誌なんかいらない!』(1986年)や「三億円強奪事件」の『三億円事件――20世紀最後の謎』(フジテレビ系で2000年に放送)などといった“昭和の大事件”と言われる犯人や当事者を演じてきたビートたけし。
人間の弱さや社会の歪みを体現し、異様な存在感と演技力で犯人像を自らに引き寄せることにおいて、右に出る者はいないだろう。