俳優としての渡辺翔太の魅力とは?
菊池風磨との対談のクライマックスでは、2019年に加入した目黒連からの長い手紙が紹介された。菊池が文面を読み終えて、渡辺翔太のアップが抜かれる。「ほぉぁぁぁぁぁ」と深い感嘆の声をもらす。その時間、約5秒もの持続。
SnowManのメインボーカルを担当することも多い彼はこうしたリリカルな母音の使い手でもある。ボーカリストとしての特性を、対談、バラエティ番組、そして俳優活動問わず、あらゆる瞬間に感じさせることに余念がない。特に俳優としての渡辺翔太の魅力とは、ボーカルならではの息づかい、フレージングを駆使した男声部の豊かさにある。
ぼくが初めて渡辺の演技を目にしたのは、中村アンとの共演ドラマ『青島くんはいじわる』である。いや、正確には「目にした」ではなく、「耳にした」といった方がいいだろう。
第1話冒頭場面が過ぎたあたり、渡辺演じる青島瑞樹が初登場する。総務部で働く葛木雪乃(中村アン)がシステム部入り口前に貼られたチラシを眺めている。そこへシステム部に中途入社した青島がキーボード入りのダンボールを抱えてくる。彼は入り口前通路にいる雪乃によけてほしい。第一声は「あのおぉ…」。同作の青島役が初めて見る渡辺の演技なわけだから、俳優としての第一声を聞いたのもこの一声(しかも語頭も語尾も母音!)ということになる。
なるほど、意外と低音域が魅力的な俳優なのか。最初はそう感じた。ところがどうだろう。その後、渡辺が出演するバラエティ番組や同作主題歌「君は僕のもの」他、Snow Manの楽曲歌唱を耳にしたときには、明らかに中音域から高音域に位置する声の持ち主なのである。声楽用語としては、次中音域であるテノール。にもかかわらず、主演ドラマの第一声は低音域にある。これはどういうことなのだろう?
葛木ゆきのという年上女性をリードしながら戯れようとするクールでチャーミングな年下男性の役柄を演じるための役作りとして、本来自分が位置する音域よりも少し低めに声色を設定しているのだろう。鼻濁音の「あのおぉ…」は 、低めの次中音域。あるいは、低音域の最高音。より正確にいえば、声部としてはテノール寄り、ぎりぎりバリトン。声質としてはバリトンの中でも最高音に分類出来る。
例えば具体的なオペラ作品の役柄だと、たぶんヴェルディの『イル・トロヴァトーレ』ルーナ伯爵役の声域かなと思うのだけれど……。第2話でシステム部近くの廊下で雪乃と鉢合わせた青島がもらす語頭「あ」の低音は、かなりの近似値である。かと思えば、雪乃の頼みを受けて偽装恋人を演じる青島が、やや首をかしげて「雪乃さんっ?」とじゃれついて発声するときには、普段の渡辺らしい高音でとろかしてくる。
そういえば、渡辺のInstagramライブ(2023年12月31日)では「誰か見にこないかなぁ〜」とテノール母音でのびやかなに視聴者に呼びかけたりもする。母音のバリエーションは豊かである。いずれにせよ、ボーカルの声部があいまいに揺れ動く音域の振れ幅をいかして、演技でも豊かな声の魅力を響かせてくれる。今年1月22日にリリースしたSnow Man初のベストアルバム『THE BEST 2020-2025』に収録されている渡辺のソロ曲のタイトルは「オトノナルホウヘ」だが、ぼくらはいつでも「カレノイルホウヘ」目を向け、耳を傾けてしまう。
(文・加賀谷健)
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