観客の倫理観をあぶりだす挑発的な暴力
『ファニーゲーム U.S.A』(2007)
監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本:ミヒャエル・ハネケ
キャスト:ナオミ・ワッツ、ティム・ロス、マイケル・ピット、ブラディ・コーベット、デヴォン・ギアハート
【作品内容】
ある夏の午後。ジョージ(ティム・ロス)と妻のアン(ナオミ・ワッツ)は、休暇を過ごすため一家で別荘に向かっていた。
別荘に到着し、隣人に挨拶を交わすアン。途中、彼女は白シャツに半ズボン、白い手袋を身につけた2人組の男性に出くわすが、この時は気に留めなかった。
その後、別荘に戻ったアンは、夕食の準備に取り掛かる。と、そこへ2人組のうちの1人が卵を譲ってほしいと尋ねてくる。
【注目ポイント】
暴力描写の受容を真っ向から問いかけるメタ的サイコスリラー。監督は『愛、アムール』(2012)のミヒャエル・ハネケで、ナオミ・ワッツやティム・ロスらが出演する。
「暴力的な映画」といえば必ず話題にあがる本作。突然訪問してきた青年2人が、休暇中の一家をいたぶり、地獄に突き落とす描写は、確かに目を覆いたくなるほどに残酷だ。
しかし本作、ただいたずらに自虐的なわけではない。それは、青年たちが第四の壁を破り、私たち観客にフレンドリーに話しかけてくる演出からもわかるだろう。
本作の根底には、暴力の快楽に溺れる私たちへの痛烈な批判が隠れている。つまり本作は、執拗に暴力を見たがる私たちの倫理観を否応なしにあぶり出す装置なのだ。
さらに注目は、本作は、1997年にハネケが制作したオリジナル版の精巧なセルフリメイクであるという点だろう。なぜハネケは、わざわざ自身の作品をリメイクしたのか。その答えは、本作の問題提起をより多くの観客に届けるということにあったと思われる。
そういった意味で本作は、現代社会における映画と暴力の関係を再考させる哲学的かつ実験的な作品と言えるかもしれない。