殺人クリエイターが創造する「芸術=地獄」
『ザ・ハウス・ジャック・ビルド』(2018)
監督:ラース・フォン・トリアー
脚本:ラース・フォン・トリアー
キャスト:マット・ディロン、ブルーノ・ガンツ、ユマ・サーマン、シオバン・ファロン、ライリー・キーオ、ジェレミー・デイビス
【作品内容】
アメリカワシントン州、1970年代。建築家を志すジャックは、なかなか理想の家を建てることができずにもがき苦しんでいた。
そんなある日、彼はある出来事をきっかけに殺人に熱中。自分なりの論理で「芸術=地獄」を正当化していく。
【注目ポイント】
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)で知られるラース・フォン・トリアーが、自身の美学と狂気をぶつけた異色のスリラー。主人公の連続殺人鬼ジャックをマット・ディロンが演じる。
1970〜80年代のアメリカを舞台に、5つのエピソードから、ジャックの「芸術的」犯罪の軌跡を描いた本作。殺人を「建築行為」になぞらえ、冷徹かつ知的に殺人を繰り返すジャックの思考は、不快ながらもどこか観客を惹きつける魅力を放っている。
そんな本作の通奏低音となっているのは、「破壊と芸術」「地獄と美」といった対立軸だ。作中では、ダンテの『神曲』や古典絵画など、古今東西の膨大な美術が引用されており、単なる連続殺人には収まらない深さを持つ。
また、ジャックが語る内省的なモノローグや、ジャック役のディロンの狂気的な演技、死後の世界を思わせる幻想的な映像表現も、観客を哲学的な思索へと導いている。
暴力を描くことの意味、美の本質、倫理観との衝突といったテーマを、観客自身に突きつけてくる本作。まさに「芸術としての地獄」と呼ぶにふさわしい一本だ。