ワケアリなリアルを描いた異色作

『新宿野戦病院』(2024)

小池栄子
小池栄子【Getty Images】

脚本:宮藤官九郎
演出:河毛俊作、澤田鎌作、清矢明子
出演:小池栄子、仲野太賀、橋本愛、平岩紙、岡部たかし、馬場徹、塚地武雅、中井千聖、石川萌香、萩原護、濱田岳、余貴美子、高畑淳子、生瀬勝久、柄本明

【注目ポイント】

 2024年7月期に放送された『新宿野戦病院』は、新宿の歓楽街・歌舞伎町にひっそりと佇む病院を舞台に、一般病院では診て貰えないワケありな患者たちと、そこに現れた軍医経験を持つ医師・ヨウコ(小池栄子)と金儲け主義の美容皮膚科医・享(仲野太賀)が繰り広げる異色の医療ドラマ。

 クドカンがコメントでトー横キッズや、ホームレス、オーバーステイの外国人といった社会問題を「まるで僕のために用意されたようなワクワクする設定」と表現したこと、塚地武雅演じるトランスジェンダーの看護部長・しのぶの紹介文など、放送前からこんなにも炎上したドラマは珍しい。

 ところが、蓋を開けてみれば、しっかり取材したことが伝わる丁寧な描写で当事者に寄り添っており、回を追うごとにネガティブな声よりもポジティブな声が上回っていった印象がある。

 一方で、キャラクターも展開もカオスで、途中までは果たして何が描きたいのか分からなかったという人も多いはず。

 その中で最初から最後まで一貫して描かれていたのが、ヨウコの「どんな命も平等に救う」という姿勢だ。当たり前のようでいて、不寛容で余裕のない現代社会において私たちは常に「誰を救うべきか救わざるべきか」という命の天秤にかけられている。その無意識の差別意識は、コロナ禍のような有事の際に可視化されるものだ。

 本作でも歌舞伎町ウイルスと呼ばれる感染症が蔓延し、歌舞伎町にいる人々に憎悪が向けられる。そんな中、いつもと同じように全員を救おうとするヨウコの姿に変わってほしくない正義を見た。

(文・苫とり子)

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【了】

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