2020年代で最も面白かった朝ドラは? 珠玉のベスト5選。名シーンが鮮やかに蘇る…視聴者の心に刺さった名作をセレクト

text by 苫とり子

1961年の開始以来、“朝ドラ”の愛称で親しまれているNHK連続テレビ小説。己の人生をひたむきに生きる主人公の姿が日本中をくぎ付けにしてきた。今回は、名だたる名作の中から2020年代のもっとも面白いベスト作品を5本セレクトしてご紹介。作品の魅力を解説する。(文・苫とり子)

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上方女優の波乱万丈の人生に泣かされた

『おちょやん』(2020)

杉咲花【Getty Images】
杉咲花【Getty Images】

演出:梛川善郎、盆子原誠
キャスト:杉咲花、成田凌、名倉潤、宮田圭子、いしのようこ、宮澤エマ、三戸なつめ、星田英利、板尾創路

「大阪のお母さん」として親しまれた上方女優・浪花千栄子の半生をモデルに、大阪の南河内の貧しい家に生まれたヒロインの千代(杉咲花)が女優の道を駆け上がっていく波乱万丈の人生を描いた本作は幼少期パートから衝撃的だった。

 かつての朝ドラはダメ親父が名物となっていたが、トータス松本演じる千代の父・テルヲは“朝ドラ史上最低の父親”として今なお語り継がれる人物だ。妻亡き後、テルヲは働きもせず酒とギャンブルに溺れ、家事や長男の世話もまだ幼い千代に任せっきり。挙句には勝手に再婚相手を連れてきて、彼女との間に新たな子を授かると口減らしのために千代を奉公に出す。

 その奉公先の芝居茶屋で演劇に魅了され、女優を目指すことになる千代。だが、どこへ行ってもテルヲが居場所を嗅ぎつけ、金をせびりに来るのだ。

 最終的には長年の酒が祟って肝臓の病気を患い、死ぬ前の足掻きで千代を守ろうとして逮捕されるテルヲ。そんな惨めな父親に千代は自分なりの“赦し”を与える。若い劇団員と不倫し、自分を裏切った夫の一平(成田凌)や悪事に手を染めた弟のテルヲ(倉悠貴)、劇団のお金を盗んだ寛治(前田旺志郎)にも。

 他者を赦すことは自分を赦すことでもある、と教えてくれたのが本作だ。千代は迷い苦しみながらも怒りや憎しみの感情を手放し、「あしたもきっと晴れやな」と暗闇に灯をともす月のような女性だった。そんな千代の泣き笑いの人生に、画面の向こうにいる傷を抱えた人もまた救われたのだ。

 悲劇と表裏一体の喜劇を圧巻の演技で体現した杉咲花は言わずもがな、主役から脇役に至るまで実力派の俳優陣で固められており、見応えがあった。なお、本作は映画『市子』(2023)や『アンメット ある脳外科医の日記』(2024)(カンテレ・フジテレビ系)で数々の名シーンを生み出した杉咲と若葉竜也の初共演作品でもある。

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