朝ドラ史上初となる3人ヒロインの人生を描く

『カムカムエヴリバディ』(2021)

深津絵里
深津絵里【Getty Images】

演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史
キャスト:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈、松村北斗、村上虹郎、前野朋哉、西川かの子、小野花梨、岡田結実

 2024年11月から今年4月にかけての再放送も大きな話題となった『カムカムエヴリバディ』(2021)。朝ドラ史上初となる3人のヒロインが100年の物語を紡いでいく、という画期的な試みがなされた作品だ。

 全112話の中で3人の人生を描きながら急ぎ足感がなく、なおかつ「ラジオ英語講座」「あんこ」「野球」「ジャズ」「時代劇」など、さまざまな要素を盛り込みつつ、綺麗に纏め上げる藤本有紀の緻密な脚本に魅了された。

 特に序盤からあちこちに散りばめられていた伏線が、滞りなく回収されていくクライマックスは鳥肌もの。そんな壮大な物語でありながら、ヒロインたちはみな市井の人間だったのが本作の特徴である。

 初代ヒロインの安子(上白石萌音​)は岡山の小さな和菓子屋の娘。安子とある理由で生き別れた娘・るい(深津絵里)は紆余曲折を経て、回転焼屋を開業する。そのまた娘のひなた(川栄李奈)は将来の夢や目標がなかなか見つからず、迷走していた時期も。

 そうした何か大きなことを成し遂げたわけではない、本当に普通の人たちの人生史を、本作は親が子にアルバムをめくりながら語り聞かせるような優しいトーンで描き出した。だからこそ、安子編のキャッチコピーにもあるように、誰もが「これは、すべての『私』の物語。」と感じ、毎朝固唾を呑んで見守っていたのではないだろうか。

 地元で有名な名家の跡取り息子であり、穏やかで聡明な稔(松村北斗)、トランペット奏者としては一流だけど、それ以外はポンコツなところがむしろ愛おしい錠一郎(オダギリジョー)、無愛想で一見感じ悪いが、何だか憎めない五十嵐(本郷奏多)と、それぞれヒロインの相手役となったキャラクターも実に魅力的だった。

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