「当たり前」とされている価値観に波紋を起こした金字塔

『虎に翼』(2024)

女優の伊藤沙莉
女優の伊藤沙莉【Getty Images】

演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉、伊集院悠、相澤一樹、酒井悠
キャスト:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、田中要次

 令和の朝ドラで最も注目を集めた作品といっても過言ではないだろう。「初めて朝ドラにハマった」という人も多かった、第110作目の朝ドラ『虎に翼』(2024)だ。

「すべて国民は法の下に平等」と日本国憲法第14条を物語の中心に据え、女性として日本史上初めて法曹界に飛び込んだ寅子(伊藤)が「はて?」と世の中で当たり前とされている価値観を疑い、透明化されている人々の声に耳を傾ける姿を描いた本作。

 男女不平等や同性婚、選択的夫婦別姓、原爆裁判、外国人差別など、現代にも繋がる数々の問題に切り込みながらも、重苦しくない雰囲気に仕上がっていたのはドラマはもちろん、アニメの脚本家としても活躍する吉田恵里香の手腕に依るところが大きい。重厚さと軽やかさのバランスが絶妙で、特に顕著だったのが「明律大学編」ではないだろうか。

 弁護士を目指し、明律大学法学部に進学した寅子。そこには、世の中の不条理や矛盾に対する怒りに満ちた男装のよね(土居志央梨)、紳士を気取りながらも内心は女性を見下している花岡(岩田剛典)、露骨な男尊女卑に固執する轟(戸塚純貴)など、ひと癖もふた癖もある同級生たちが集っていた。

 ゆえに当初は意見が対立することもあったが、少しずつ互いを知り、歩み寄っていった彼ら。そんな中、父・直言(岡部たかし)が贈賄容疑で逮捕され、寅子が恩師や仲間たちの協力を得て無罪を勝ち取っていく展開はジャンプ作品のような味わいがあった。骨太な社会派リーガルドラマでありながら、エンターテインメントとしても優れていたのが最大の魅力だ。

 また本作はヒロインの幼少期や出産シーンはもとより、戦前戦後を通過する朝ドラでは必ずと言っていいほど登場した玉音放送などをことごとくスルー。かと思いきや、寅子が生理に悩まされる場面を盛り込むなど、この物語にとって何が必要で、何が必要でないかというシーンの取捨選択も鮮やかだった。

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