震災当事者と非当事者の壁を乗り越える

『おかえりモネ』(2021)

清原果耶
清原果耶【Getty Images】

演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、押田友太、中村周祐、原英輔、田中諭、舩田遼介
キャスト:清原果耶、鈴木京香、坂口健太郎、永瀬廉、蒔田彩珠、今田美桜、浜野謙太、でんでん、清水尋也

 宮城県・気仙沼湾沖の島に生まれ育ち、登米で青春を過ごしたヒロインの百音(清原果耶)が、天気予報を通じて人々の役に立ちたいと気象予報士を目指して上京し、やがて故郷の島に戻って地域に貢献する姿を描いた物語。目には見えない心の痛みと真摯に向き合った作品であり、その象徴となっていたのが東日本大震災だ。

 2011年3月11日に発生した東日本大震災で百音たちが暮らす島も大きな被害を受け、幼なじみである亮(永瀬廉)の母親は津波に巻き込まれて行方不明に。百音の妹・未知(蒔田彩珠)は津波が迫り来る中、認知症でその場を動こうとしない祖母を置いて逃げることしかできなかった。

 一方、高校受験の合格発表でたまたま島を離れていた百音。よって大切な人たちが大変な思いをしていた時に「自分は何もできなかった」という罪悪感に長く苦しめられ、やがてはその思いが未来を予測し、自然災害から命を守る気象予報士の仕事に向かわせる。

 放送当時、一部の視聴者からは百音の苦しみがふわっとしていて分かりづらいという声もあった。かつ、百音はあまり自分の気持ちを話さないキャラクターだ。

 人の気持ちは言葉では言い表せないほどに複雑で、他人にはそう簡単に吐露しない。時間帯的にもわかりやすさが求められがちな朝ドラとしては挑戦的な作品だったように思う。

 そんな本作を象徴するのが、「#俺たちの菅波」というハッシュタグで人気を集めた菅波(坂口健太郎)の「あなたの痛みは僕にはわかりません。でも、わかりたいと思っています」という台詞だ。

 菅波は百音が高校卒業後に勤める森林組合に併設された診療所の医師で、無愛想で理屈っぽく、当初は百音にも辛辣な言葉をかけていた。だが、根は優しく、不器用ながらも真摯に人と向き合う姿勢はこの物語のあり方と似ている。

 上記の台詞はそんな菅波の百音に対する愛の告白。当事者と非当事者の壁を乗り越えていく「わからないけど、わかりたい」という気持ち。その温かさに溢れた物語だった。

【著者プロフィール:苫とり子】

1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

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【了】

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