狂気とカリスマで部下を従える陸軍中尉

玉木宏(鶴見篤四郎)『ゴールデンカムイ』(2024)

玉木宏【Getty Images】
玉木宏【Getty Images】

監督:久保茂昭
原作:野田サトル
出演者:山﨑賢人、山田杏奈、眞栄田郷敦、矢本悠馬、工藤阿須加、玉木宏

 2024年に公開された実写映画『ゴールデンカムイ』。野田サトルの人気漫画を原作とし、明治末期の北海道を舞台に、莫大なアイヌの埋蔵金を巡る男たちの壮絶な争奪戦を描いた本作は、豪華キャストの共演でも注目を集めた。その中で、主役・杉元佐一(山﨑賢人)以上に強烈な印象を残したのが、玉木宏演じる鶴見篤四郎中尉だ。

 鶴見中尉は、陸軍第7師団の頭脳にして狂気の軍人。脳の一部を失った後遺症により精神のバランスを崩しながらも、カリスマ性と策略で多くの部下を従える狂気の指導者である。原作でも強烈な人気を誇るキャラクターだが、実写版での玉木の演技は、その期待を大きく上回った。

 特徴的な額当てや、口元の歪んだ笑み、歯ぎしりの癖といった細かい描写まで丁寧に再現され、まるで漫画から抜け出してきたかのような仕上がりとなっている。中でも、ロウソクを拾い上げて口に運ぶ狂気の演出や、優しい語り口の中に潜む不穏さが際立つ場面など、印象的なシーンがいくつもあった。登場時間はそれほど多くないにもかかわらず、彼が登場する場面は観客の記憶に強く刻まれる。

 SNS上では「#鶴見中尉」「#玉木宏」といったハッシュタグが飛び交い、公開当時は検索ワードでも鶴見中尉が杉元を上回る勢いで注目を集めた。演技力だけでなく、原作への深い理解と演出陣の徹底したビジュアル再現が合わさったことで、ここまでの完成度が実現したのだ。

 漫画原作の実写化は賛否が分かれやすいジャンルだが、本作の玉木宏は二次元のキャラクターを見事に体現しただけにとどまらず、自身が、作品全体の格を引き上げる稀有な俳優であることを証明した。主役を支えるどころか、作品の顔として躍り出たその姿は、まさに漫画実写化史上に残る怪演であった。

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