美しさと恐ろしさを兼ね備えた色欲の化身
松雪泰子(ラスト)『鋼の錬金術師』(2017)
監督:曽利文彦
原作:荒川弘
出演者:山田涼介、本田翼、ディーン・フジオカ、蓮佛美沙子、本郷奏多、松雪泰子
映画『鋼の錬金術師』(2017)は、荒川弘の大人気漫画を実写化した作品として公開当時から大きな注目を集めた。主演のエドワード・エルリック役には山田涼介が起用され、VFXを駆使した映像表現も話題となったが、公開後に最も話題をさらったのは、敵役・ラストを演じた松雪泰子だった。
ラストは、物語の中で暗躍する人造人間・ホムンクルスの1人で、「色欲」を象徴する存在。妖艶な美しさと冷酷さを併せ持ち、原作でも人気の高いキャラクターだ。その難役に挑んだ松雪泰子は、撮影前から役作りに徹底的にこだわり、肉体改造として5キロ増量。上半身のシルエットを際立たせることで、原作のイメージに近づけることに成功した。監督の曽利文彦も、彼女が衣装に身を包んだ瞬間、現場の空気が変わったと証言している。
特筆すべきは、キャラクタービジュアルの再現度の高さだ。7回にも及ぶ衣装合わせと、細部にこだわったメイクやCG処理により、松雪が演じるラストは「原作からそのまま出てきたようだ」とファンの間で評判に。冷たい眼差し、漆黒のドレス、そして肌に刻まれたホムンクルスの印。どれもが色欲の化身としてのラスト像を完璧に表現していた。
漫画実写化では、主演俳優が注目の的となるのが常だが、松雪泰子のラストは、まさに主役を食ったと言えるほど観客の印象に強く残った。彼女が見せた「美しく、強く、恐ろしく、それでいてどこか儚い」ラスト像は、単なる敵役の枠を超え、物語全体に重厚な魅力を加えていたといえるだろう。