「頭だけの抵抗」──無惨に賭けた命の代償
珠世
【注目ポイント】
鬼でありながらも無惨の支配を逃れ、医師として人の心を持ち続けた数少ない存在──それが珠世である。彼女は禰豆子を人間に戻す薬の開発に尽力し、炭治郎に鬼の血の採取を依頼するなど、鬼殺隊と共に戦ってきた。
物語が佳境を迎える「柱稽古編」終盤から「無限城編」にかけて、珠世の壮絶な最期が描かれる。
それまで独自に活動してきた珠世が、産屋敷耀哉の決死の作戦に協力するかたちで表舞台に立つ。耀哉は自身の命を代償に、無惨を屋敷ごと爆破するという捨て身の計画を決行。その際、珠世も共に無惨に取り込まれ、自らの腕に仕込んだ「鬼を人間に戻す薬」を無惨に吸収させることに成功する。
この薬こそが、鬼の頂点に立つ無惨を弱体化させる決定的な一手であった。
しかし、無惨は血鬼術で無限城を展開し、柱たちを各地へ分断。援軍が届かぬなか、珠世は鬼の再生力に抗いながら、時間を稼ごうとする。だが、無惨は薬の分解を始め、ついに解毒に成功してしまう。
その瞬間、珠世は肉体のほとんどを失い、頭だけの状態に。それでもなお、無惨に向かって憎しみと覚悟を叫ぶ姿は、静かで凄まじい抵抗の象徴である。そして次の瞬間、無惨の手によってその頭部は無情にも握り潰される。
だが、彼女の死は決して無駄ではなかった。珠世が与えた一撃は、無惨の内部に大きな変化と時間差の効果をもたらし、鬼殺隊が優位を築く大きな一因となる。
命を削りながらも人間への希望をつなぎ、鬼にすら人の尊厳を問い続けた珠世。その最期は、鬼滅の刃において屈指の“静かなる激しさ”を宿した衝撃的な死として、多くの読者の記憶に刻まれ続けている。