「毒に沈む狂気」──胡蝶しのぶの執念に散る
童磨
【注目ポイント】
上弦の弐・童磨──鬼の中でも最上位の実力を持つ冷酷な怪物であり、無限城編ではその真の恐ろしさが明らかとなる。
人間だったころから感情を欠いた存在であり、他人の痛みや悲しみに共感することができなかった。鬼となった今では、人間を食すことで“救済”できると本気で信じ、歪んだ慈愛のもとに命を奪い続けてきた。
そんな童磨に立ち向かうのは、蟲柱・胡蝶しのぶ。彼女にとって童磨は、最愛の姉・カナエの命を奪った仇敵だった。だが、上弦の弐という圧倒的存在に対し、身体能力に劣るしのぶでは太刀打ちできず、戦いは一方的なものに。ついには童磨に体ごと吸収されてしまう。
だが、それこそがしのぶの“計画”だった。
しのぶは自らの命を賭けて、長い時間をかけて毒を体内に蓄積していたのだ。蝶屋敷の医師として培った知識を駆使し、鬼すらも殺す猛毒を血肉に宿していた。その毒を取り込んだ童磨の体は内側から崩壊を始め、異変に気づく頃にはすでに遅かった。
動揺した童磨に対し、駆けつけた栗花落カナヲと嘴平伊之助が連携して攻撃。最終的に頸を落とされ、童磨は滅びの時を迎える。
注目すべきは、絶命の間際に見せた童磨の“変化”である。しのぶの命がけの復讐によって初めて恐怖を知り、心の奥にわずかに芽生えた感情を戸惑いながら受け入れていく。感情を理解しなかった彼が、自らの最期に人としての一抹の温もりを知る──その皮肉なラストは、観る者に背筋の凍るような不気味さと、かすかな哀しみを残す。
冷笑と虚無に彩られた童磨という存在が、最期に触れた“感情の熱”。それこそが、胡蝶しのぶが命を賭して導いた真の終焉だったのかもしれない。