医療と権力、そのはざまで──社会の“巨塔”を映す日韓の視点
『白い巨塔』(フジテレビ、2003)
→韓国版『白い巨塔(The Great White Tower)』(2007)
脚本:井上由美子
キャスト:唐沢寿明、江口洋介、黒木瞳、矢田亜希子、水野真紀
【日本版の作品内容】
国立浪速大学病院の天才外科医・財前五郎(唐沢寿明)は、師である東教授の後任と目されるが、傲慢な態度で東の反感を買ってしまう。東は財前の昇進を阻むべく、外部から対抗馬・菊川を招き、教授選をめぐる権力闘争が幕を開ける。
【注目ポイント】
1966年の劇場版公開以降、たびたびテレビドラマ化され、そのたびに高視聴率を記録してきた『白い巨塔』。
原作は、『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』などで知られる山崎豊子。巨大組織に潜む権力闘争や人間の欲望、倫理との葛藤を鋭く描いた本作は、時代を超えて共感を集めてきた。
繰り返し映像化されるたびに、その時代ごとの俳優陣と演出で新たな顔を見せてきたといえるだろう。
2003年版では、唐沢寿明が演じた財前五郎の冷徹な野心家ぶり、黒木瞳の愛人・花森ケイ子の妖艶さ、西田敏行による義父・財前又一の濃厚なキャラクターといった登場人物のインパクトの強さが際立った。
一方、2007年に韓国で制作された同名ドラマは、日本版のリメイクではなく、山崎豊子の原作をもとにした独自のドラマ。とはいえ、日本版と比較されることが多い作品だ。
韓国版では、主人公チャン・ジュンヒョクの愛人は物語の表には出ず、影の存在にとどまる。その控えめな描写が、全体に落ち着いたリアリズムをもたらし韓国版ならではの雰囲気を生み出していた。
また、キム・ミョンミン演じるジュンヒョクは、権力を追い求めるエリートながら、完全には非情になりきれない人物として描かれる。このため韓国版は、権力闘争のドラマであると同時に、人間関係に縛られ葛藤する医師たちの群像劇としての側面が際立っていた。
こうした違いは、演出だけでなく社会的背景の違いも影響している。医療制度の違いや教授選挙の仕組みなど、国ごとの事情が作品のリアリティに反映され、日韓それぞれの社会の巨塔を映す鏡となっている。