歴史・恋愛・政治が交錯する韓国版の野心

『JIN-仁-』(TBS、2009)

→韓国版『Dr.JIN』(2012)

大沢たかお
大沢たかお【Getty Images】

脚本:森下佳子
キャスト:大沢たかお、中谷美紀、綾瀬はるか、小出恵介、桐谷健太

【日本版の作品内容】

 東都大学病院の脳外科医・南方仁(大沢たかお)は、手術で婚約者・未来(中谷美紀)を植物状態にしてしまった過去に苦しんでいた。ある日、緊急手術した身元不明の男が逃走。追った仁は階段から落ち、気を失ってしまう。

【注目ポイント】

『JIN-仁-』は、現代医師が歴史をさかのぼり、命と真摯に向き合う中で成長していく姿を描いた傑作ヒューマンドラマだ。

 この物語が2012年に韓国で『Dr. JIN』としてリメイクされた際、作品は単なる翻案を超え、韓国ドラマならではの手法と感性で大胆に再構築された。

 まず、舞台設定がまったく異なる。日本版は、幕末の江戸を背景に、南方仁(大沢たかお)が歴史のうねりの中で医師としての使命に突き動かされ、人々との絆や咲(綾瀬はるか)との淡い恋模様も加わり、医療と歴史、そして人間ドラマが重なり合う内容だった。

 一方、韓国版は19世紀末の朝鮮王朝が舞台。主人公ジン・ヒョク(ソン・スンホン)は、激動の政変期にタイムスリップし、医療を通じて人々の命と向き合う。ただし、韓国版は恋愛と政治闘争がより色濃く描かれ、物語は単なる医療ドラマを超えて、愛憎劇と権力争いが交錯するドラマへと変貌している。

 注目すべきは、現代と過去をつなぐキャラクター設定の違いだ。日本版では、仁の恋人・未来と、江戸時代に出会う花魁・野風が瓜二つという設定が、物語全体の感情的支柱となっていた。

 これに対し韓国版では、ヒョクの妹ミナと、過去で出会うヨンレ(ともにパク・ミニョン)が似ているという構図に置き換えられている。

 さらに、韓国版はオリジナルキャラクターの武官ギョンタク(ジェジュン)を登場させ、ジン・ヒョクと敵対関係を築きつつ、ヨンレを巡る三角関係が展開。そこに政治闘争も絡み、医療ドラマでありながら三角関係の緊張感が物語をより情熱的にしている。

 同じ原作をベースにしながらも、文化背景、時代認識、そしてドラマ表現の違いによって、まったく異なる作品へと姿を変えた『JIN-仁-』と『Dr. JIN』。この違いこそ、リメイクという手法の奥深さであり、作品が持つ普遍的な力を示していると言えるだろう。

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