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鬼畜すぎる…。実在する殺人事件をモデルにした日本映画5選。息をのむほどリアルな”悪”に不思議と目を奪われる作品をセレクト

text by 寺島武志

今回は実際に起きた殺人事件をベースにした日本映画を5本セレクト。実話ならではの血なまぐさいエピソードがてんこ盛り。香り立つ悪のバイタリティに圧倒されること間違いなし。映画の内容を紹介するとともに、モデルとなった事件の顛末も解説する。(文・寺島武志)

「7つの顔を持つ女」をモデルにした
2000年代を代表する邦画の名作

『顔』(2000)

監督:阪本順治
脚本:阪本順治、宇野イサム
キャスト:藤山直美、佐藤浩市、豊川悦司、大楠道代、國村隼

【作品内容】

本作は30代半ばの冴えない中年女性が、衝動的に妹を殺害してしまい、その後の逃亡劇を描いた作品だ。1995年、母親が営むクリーニング店で洋服のかけはぎの仕事をしながらひっそりと暮らしていた主人公の正子。そんな彼女の生活が母親の急死で一変。通夜の夜、正子はかねてから仲の悪かった妹をはずみで殺してしまう…。

犯罪映画にカテゴライズされてはいるが、主人公は冷酷な殺人犯という印象ではない。逃亡する先々における、さまざまな人たちとの出会いと交流をメインに描いたストーリーである。藤山直美扮する主人公と束の間の交流をかわすのは、佐藤浩市、豊川悦司、18代目・中村勘三郎、岸部一徳など、名優ぞろい。

【注目ポイント】

主人公の妹を演じた牧瀬里穂Getty Images

主人公のモデルは、1982年に発生した松山ホステス殺害事件の犯人・福田和子である。実際の事件は、発生から逮捕されるまで15年にも及ぶ逃亡劇で知られる。福田和子は逃亡中に整形手術を繰り返し「7つの顔を持つ女」とも呼ばれた。タイトルの『顔』もそこに由来している。

同作は実際の事件を完全に再現しているものではなく、あくまでも事件からインスパイアされた虚構のエピソードが語られる。しかしながら、実際の事件と比べてみると、逃亡中にラブホテルの清掃員として働いたり、警察から自転車で逃げ延びたり、スナックで歌う映像や写真が報道されたりと、実際の事件と類似する部分がうかがえる。

主演は喜劇役者・藤山寛美の娘の藤山直美が演じている。そのこともあってか、シリアスなトーンの中にも、主人公が逃亡生活を続けるうちに、活き活きとした表情に変化していく過程が、時にユーモラスなタッチで描かれる。映画作品としての完成度はきわめて高く、キネマ旬報ベストテンで1位に輝くなど、2000年度の映画賞を独占した。

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