「 演技が上手いと言われたくない」 27歳でお笑い芸人から役者へ転身。俳優・三浦誠己、役者人生を振り返る独占インタビュー
出演した映画の本数は100本以上。日本映画に欠かせない名バイプレイヤー・三浦誠己さんにロングインタビューを敢行。瀬々敬久、行定勲、熊切和嘉、三宅唱…。名匠たちとのしびれるエピソードや、出演作の撮影秘話、役者としての矜持など、充実したお話をたっぷり伺った。(取材・文:山田剛志/映画チャンネル編集長)
【三浦誠己 プロフィール】
1975年生まれ、和歌山県出身。1994年にNSC(吉本総合芸能学院)に入学し、お笑い芸人としてキャリアをスタートさせる。『岸和田少年愚連隊』(1996)で映画に初出演し、2003年に俳優に転向。2004年公開の『きょうのできごと』で、メインキャストの1人に抜擢され、本格的に役者としてデビューを果たす。主な出演作に『きょうのできごと』(2004)、『海炭市叙景』』(2010)、『火花』(2017)など。公開中の映画『ケイコ 目を澄ませて』では、岸井ゆきの演じる主人公・ケイコが所属するボクシングジムのトレーナー役で出演。2023年1月27日(金)からは、出演作『あつい胸さわぎ』の公開が控えている。
行定勲監督『きょうのできごと』への出演が
俳優転身のきっかけに
―――2010年公開の『海炭市叙景』を封切で拝見して以来、三浦さんのご活躍を追ってきた者として、インタビューの機会をいただき光栄です。ホームぺージによると1996年公開の井筒和幸監督『岸和田少年愚連隊』が最初の出演映画となっていますね。
「演じたのは、登場する不良の一人で、ほぼエキストラ。まだ 20歳になったばかりで、初めての現場でワケも分からず、弁当食って帰るぐらいの感じでしたね。でも、撮影現場の雰囲気を知れて、刺激を受けた記憶があります。あとは、完成してスクリーンに自分の姿があるってことに単純に喜びを覚えました」
―――その後、しばらく芸人として活動されて、2003年に俳優に転身されています。
「2002年の年末に僕は芸人を辞めることを決意しています。27歳になった時かな」
―――どのようなきっかけがあったのでしょうか?
「18歳でお笑いの道に入り、およそ10年間続けてきて、自分のネタとかキャラクターを考えたときに、自分で芸人としてのキャリアを強制終了させなければいけないなあと思っ
たんです。今では、30歳を超えてもM―1グランプリにチャレンジする方や、40代になっても売れずに芸人を続けている方は沢山いらっしゃって、それはとても素晴らしいことだと思います。でも、僕の世代では20代で売れなければ、お笑いで食べていくのは厳しいという雰囲気でした」
―――時代の雰囲気も大きいですよね。
「才能がないことに気づいたというよりは、努力する情熱を失ってしまった。それが一番大きかったですね。流されるがまま先輩と遊んで、『芸人やってます』とか言いながら、実際の稼働は月に1回か2回の舞台だけ。同期と後輩も追い抜くように売れていくし、『俺は一体どうしたいんだろう?』と。若い時は何も分からなくても、がむしゃらに努力するエネルギーがあったんですけど、年を重ねるにつれてガソリンが切れてしまったような気がしたんですよね」
―――芸人引退を決意してから、すぐに俳優に転身しようと思われたんですか?
「いえ、全然(笑)。芸能関係の仕事からは足を洗って、故郷で暮らしていこうと思っていました」
―――なんと…!
「芸能の世界から足を洗うと決心したとはいえ、吉本興業所属のタレントとして出演した映画『IKKA:一和』(2002 監督:川合晃)の舞台挨拶の仕事が残っていました。その間肩書がないと不便なので、“俳優”ということにしておこうと。そんなタイミングで、 『きょうのできごと』(2003 監督:行定勲)の話が舞い込んできたんですよ」
―――当時、行定勲監督は2001 年公開の『GO』で国内の映画賞を総なめして、飛ぶ鳥を落とす勢いを誇っていましたよね。どのような経緯で『きょうのできごと』に出演することになったのでしょうか?
「『きょうのできごと』は関西の大学生の話ですが、『方言指導のテープを作ってください』という依頼が吉本に来て、僕が引き受けることになったんです。それで脚本を読ませてもらったらすごく面白くて…」
―――最初は方言指導のスタッフとして製作チームに入られたんですね。そこからどのような経緯でメインキャストの1人に名を連ねることになったのでしょうか?
「脚本を読んで、この作品に出演したいという気持ちが沸々と湧いてきました。行定監督やプロデューサーの方は関西弁に関する知識がなかったので、方言指導をするにあたって、関西弁のイントネーションや言い回しを一生懸命レクチャーしたんです。僕の『この作品
に出たい』という熱意が伝わったのか、行定監督がメインキャストの1人に大抜擢してくれたんです」
―――人生の転機となった出来事ですね。
「『きょうのできごと』の現場はとにかく楽しかったですね。方言指導も兼任しているので、自分が出演していないシーンにも付きっきりでした。とはいえ、『この映画をやり遂げて芸能界を去ろう』という気持ちに変わりはありませんでした。しかし、案の定、撮影が終わってしばらく経つと、映画の公開と舞台挨拶が待ち受けているわけですよ。その間にオーディションが入って、次の仕事に繋がっていく。俳優に転向した初期の頃は、毎回『これが最後だから一生懸命やろう』という気持ちで撮影に臨んでいましたね。最後に爪痕を残して、おじいさんになった、自分の出演作を見ながらお酒を飲めたらいいや、なんて思いながら(笑)。俳優で食っていこうと決心がついたのは、今の事務所に入ったとき(2005年)じゃないかな」
―――行定監督の作品にはその後も沢山出演されていますね。
「はい。僕にチャンスをくれた恩人ですから、呼んでくださるかぎり、近況報告も兼ねて作品に参加させていただいていますね」