ドラマ史に残るラブシーンも…『虎に翼』が期待以上の傑作になったワケ。新章に突入したNHK朝ドラの素晴らしさを徹底解説
各所で好評を博している、伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説『虎に翼』。本作は、日本初の女性弁護士になった人物の情熱あふれる姿を描く。物語は終戦を迎え、6月から新章がスタートした。今回は、放送開始から2か月にわたる物語を当時の文化史と共に振り返るレビューをお届けする。(文・田中稲)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:田中稲】
ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。
2か月の壮大なプロローグ――。
あまりにもぴったりな放送スケジュールに感動
正直、『虎に翼』には期待していなかった。というのも、一つ前の「ブギウギ」が面白過ぎたからである。笠置シヅ子という昭和初期を代表するアーティストの人生はワクワクしたし、歌あり踊りあり、当時のエンターテインメントがギュギュッと凝縮されて華やかだった。
そんなだったから、法曹界をテーマにした『虎に翼』は急にハードルが上がった気がしたのである。
ところが見始めたら、想定外の面白さに止まらなくなってしまった。想像以上に現代的な寅子(伊藤沙莉)。ビールの飲みっぷり、「ちょっと―っ!」などの叫びっぷりは特に、令和の今でもいそうな親近感。伊藤沙莉さんのハスキーな声が、すべてに説得力を持たせている。
また、個性豊かで、華やかな昭和初期のファッションも楽しいご学友のみなさん。ただのサブキャラかと思いきや、ここぞというときに重要な台詞を言う花江ちゃん(森田望智)。死に際、イキイキと弱音を吐き出しスッキリする父、直言(岡部たかし)――。
そしてなにより、こんなに、日程的に緻密に計算された朝ドラがかつてあっただろうか。5月3日の憲法記念日に、銀行に勤務する直言が巻き込まれた共亜事件の無罪判決の回(第25回)をビシッと当ててきたときは、びっくりしたものだ。タイムリーというか、脚本の進行が見事すぎると感動した。
さらに第9週の5月31日(金)回、初回(4月1日)の冒頭シーンへとつながったシーンは「オオッ!」と声を上げてしまった。寅子のお見合い年である昭和6年(1931年)から始まり、日本国憲法公布の昭和21年(1946年)までの15年を、中だるみなく、ちょうど2か月で描き切るなんて、どう計算をして書いているのか。舌を巻くばかりである。
まさに2か月の壮大なプロローグ。4月・5月、私たち視聴者は、あらゆる方面から「女の地獄」を見せつけられた。ユーモアとペーソスでくるみながら描く、その按配も見事だった。