花の井(小芝風花)の心意気
愛しい人を早くに亡くし、源内はその面影を追わずにはいられなかったのだろう。「ここにも瀬川はいないのか」という台詞に胸が締め付けられる。もう菊之丞がいないことは分かっているが、それでもせめて同じ名前の人と一緒に夜を過ごしたかったのだ。
そんな源内の思いを汲んで、男装に着替えた花の井。その心意気に源内も胸を打たれる。2人が過ごした夜は、筆舌に尽くしがたいほど美しかった。かつて菊之丞が自身の家で舞の稽古をしていた時のように舞ってほしいという源内の求めに応じる花の井。
キセルをふかしながら、花の井の舞を見つめる源内の瞳が次第に潤んでいく。彼のように飄々としていて、何を考えているか分からないが、人情味溢れる人物を演じさせたら安田の右に出る者はいない。そう思わせる名演だった。
その後、源内が書いた序文は「どんな好みの人でも、いい女が必ず見つかる」という蔦重の言葉に実感を乗せたものだ。
花の井は、美しさも知性も兼ね備えた売れっ子女郎。だけど、なにせ遊ぶにはお金がかかる。もちろん長谷川平蔵(中村隼人)のように、彼女をものにするためなら金に糸目をつけない男もいるが、みんながみんな手の届く相手ではない。
一方、同じ女郎屋に所属するうつせみ(小野花梨)は花の井よりも格は落ちるかもしれないが、控え目で優しく、そういうところが新之助の心を捉えたのだろう。美醜の差、知性、気性の違いなど、色々あれど、誰もが誰かの“いい人”になりうる可能性を秘めている。そんな吉原の世界を言い表した源内の文章は、辛辣だけど温かみのある見事なものだった。