蔦重の成功を快く思わない人間も

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第3話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第3話 ©NHK

 そんな扇屋の言葉に挑発させられたのもあるが、駿河屋の心を大きく動かしたのは完成した入銀本「一目千本」(ひとめせんぼん)だ。読み進めるうちに、自然と声に出して笑っていた駿河屋。「誰よりもこの町を見てんだね、あの子は」という妻・ふじ(飯島直子)の言葉に、誇らしくも寂しい、というような表情を浮かべる。それは立派な、人の親の顔だった。

 前回の反省を生かし、吉原の馴染みの客にならないと手に入らないという条件で『一目千本』を売り出した蔦重。結果、吉原は噂を聞きつけ、本に興味を持った新規の客でごった返す。俗にいう、バズった状態。

 ここまでの道のりは決して楽ではなかった。けれど、本作りの楽しさを知った蔦重は「大変なのに楽しいだけって、んな楽しいこと世の中にあって、俺の人生にあったんだって…。何かもう、夢ん中にいるみてぇだ!」と飛びっきりの笑顔を見せる。今回、蔦重は資金集めから、企画、編集、製本、販売まで全てをこなし、一から本を作った。ついに版元としてデビューしたわけである。

 それが気にくわないのが、鱗形屋。「次はどうする?」と焚きつけたのは鱗形屋だが、まさか蔦屋が全部一人でやるとは思わなかったのだろう。もちろん、鱗形屋のところにお金は一切入らない。しかも、今回の成功を経て蔦重が出版業に乗り出す可能性だってある。そうなったら商売敵だ。険しい顔つきになるのも無理はない。

 さらにラストでは、徳川御三卿の田安家当主・治察(入江甚儀)が何者かに暗殺されたと見られるシーンが。ライバルに当たる一橋家の当主・一橋治済(生田斗真)が不穏な表情を見せる。

 治済といえば、本作と同じく森下佳子が手がけたNHKドラマ『大奥』(2023)で、次々と邪魔者を毒殺する“サイコパス”として描かれた人物。仲間由紀恵の怪演ぶりも大きな話題となった。生田も負けじと不気味なオーラを纏っている。ここから大きく時代が変わる…そんな予感が漂うラストだった。

(文・苫とり子)

【関連記事】
【写真】横浜流星に思わず見惚れる…豪華キャストの貴重な未公開写真はこちら。大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』劇中カット一覧
江戸の奇才・平賀源内が早速登場… 吉原との関係に胸が締め付けられたワケ。 NHK大河ドラマ『べらぼう』第2話考察レビュー
女郎の打ち捨てをわざわざ見せた理由とは? 横浜流星の圧倒的な“陽”の説得力とは? NHK大河ドラマ『べらぼう』第1話考察

【了】

1 2 3 4
error: Content is protected !!