「カメラアイ」は決して便利なだけの能力ではない
冒頭から、空き家で起きた殺人事件を捜査することになった柊班。氷月は死体現場を一目見ると、すぐに踵を返して空き家の持ち主のもとへ聞き込みに向かう。
さらに、現場近くをうろついていたが目に留まるや否や、以前、彼女を見かけた7年前の日付と時間を正確に言い当ててみせた。自身の能力をフル活用した機敏な立ち回りは、柊班の検挙率の高さを裏付けている。
しかし、カメラアイは決してメリットばかりではない。見たものすべてを記憶するとは、たとえどれだけ悲惨な現場だろうと忘れることができないということ。
本来なら時間の経過とともに薄れていくはずの記憶が、ふとしたきっかけで鮮明にフラッシュバックする。それは、トラウマを想起する危険性を絶え間なく抱えていることに他ならない。
氷月が帰宅したあと、部屋のクローゼットが閉じられているのを目にしたときに頭の中を駆け巡った映像。おそらく幼いころに見た、両親が襲われる瞬間だろう。
脳内でシャッター音を響かせて殺人現場を記憶に植えつける行為は、あのときクローゼットの隙間から覗いた痛ましい光景を思い出す可能性と隣り合わせの捜査だった。
それでも、彼女は悲鳴をあげている女性の声を忘れることはない。空き家で起きた殺人事件の捜査と並行して、氷月だけは7年前に起きた女子高生失踪事件を調査する。
「一度見たものは忘れない。君にとって時間は関係ないんだな。こないだ起きた空き家の殺しも。7年前の失踪も」
行方不明の女子高生が生存している、その一縷の望みを捨てずに行動する一貫した考えは、彼女の過去も関係しているのかもしれない。