鴻田が警察官になると決めた事件

『東京サラダボウル』第6話©NHK
『東京サラダボウル』第6話©NHK

 同時に、前回ボランティアが有木野に言っていた「味わってもないのに決めつけるの、よくない」という言葉を思い出した。彼は一体どんなつもりで、そんなことを言ったのだろう。本心からそう思っているのだとしたら、似て非なるものである彼と鴻田が相対す場面が少し怖くなってくる。

 間もなくスヒョンの父は密輸に関与していた疑いで逮捕されてしまう。どうやら、美術の学校に通いたいというスヒョンのために、なんとかお金を稼ごうと密輸に関与してしまったらしい。しかし、その場に居合わせた近隣の住民たちは、彼らが“在日朝鮮人だから”という外側だけで判断して「在日だからズルをした」と囁き合っていた。

 こういった偏見は、残念ながら20年経ったいまもあまり変わっていない。相手の属性でひとくくりにして、決めつけたり、罵詈雑言を浴びせたりする。スヒョンが鴻田に「わたしは何も問題なく働けるんやろか?」と呟いたのも、こうした状況を感じ取っていたからなのだろう。

 スヒョンとはそれっきり会えずじまいで「彼女のことを忘れて生きてこられちゃった」という鴻田だったが、通り魔事件に遭遇したことで考えが変わる。動けなくなっている母子に刃物を向けて近づいてくる犯人を見た鴻田は、とっさに2人を守ることを決めた。

 走り寄ったところでなす術はなかったものの、鴻田の接近により生まれた犯人の刃が迷うほんの数秒で、警察官が助けに来てくれた。鴻田を助け、「よく決めたね、立ち向かうって。誰でもできることじゃないよ」と声を掛けたその警察官こそ、有木野の大事な人・織田(中村蒼)だった。

 この瞬間、鴻田はかつてスヒョンが言っていた「大事なのは決めること」という言葉を思い出したのだろう。誰かのことを守れる自分になろうと、警察官になることを決めたのだった。

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