田沼意次(渡辺謙)を疑わなかった松平武元(石坂浩二)

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第15話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第15話 ©NHK

 時を同じくして松平武元(石坂浩二)が真相に辿り着き、手袋を調べ始めたと聞いて焦りを見せる意次。毒を仕込んだ覚えはなかったし、他にいくらでも毒を仕込める人間はいる。けれど、武元は意次を目の敵にしている相手。これを手札に自分を追い落とそうとするに違いないと意次が思うのも無理はないだろう。

 しかし、武元にそのつもりはなかった。意次が犯人なら巧妙に証拠を隠すはずで、みすみす武元に主導権を握らせたことこそ意次が犯人ではない証拠。にもかかわらず、意次憎しで犯人に仕立て上げたら、徳川家に仇をなす真犯人を取り逃がすことになる。

 それは、忠義心の強い武元が望むことではない。同じように、徳川家に忠誠を尽くす意次が犯人のはずはないと、武元は確信もしていた。「みくびるな」という言葉と、威厳に満ちた表情に武元の矜持が滲む。

 そんな武元は「世の大事はまずは金」という意次の考えは気にくわないとした上で、こんなことを語った。

「金というものは、いざという時に米のように食えもせねば、刀のように身を守ってもくれぬ。人のように手を差し伸べてもくれぬ。左様に頼りなき物であるにもかかわらず、そなたも世の者も、金の力を信じすぎておるようにわしには思える」

 私たちもまたお金さえあれば、何でも手に入ると信じている節がある。けれど、米不足に揺れ、忍び寄る戦争の影に怯える今、武元の言葉が刺さる人も多いのではないか。意次も武元の指摘で目が覚める思いがしたに違いない。

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