富田望生の名演が泣ける…「大丈夫?」という言葉の難しさとは? ドラマ『明日はもっと、いい日になる』第3話考察&感想【ネタバレ】
福原遥が主演を務める月9ドラマ『明日はもっと、いい日になる』(フジテレビ系)が放送中。本作は、児童相談所に出向となった刑事が、こどもたちとその親と向き合い、ともに成長していく姿を描いた完全オリジナルストーリーだ。今回は3話のレビューをお届けする。(文・古澤椋子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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母親にのしかかる重圧を取り除く難しさ
完璧を求めない。それが子育てする上で大切なことなのかもしれない。『明日はもっと、いい日になる』第3話を見て、そんなことを考えた。
変わらず、安西叶夢(千葉惣二朗)と奏夢(小時田咲空)の様子を気にしている夏井翼(福原遥)。児童相談所には、ふたりの母親・安西夢乃(尾碕真花)が乗り込んでくる。
「お前のせいで家族がぶっ壊れたんだから」夢乃が吐いた言葉は、別の形で翼に突きつけられることになる。
児童相談所に、育児相談の予約が舞い込む。第1話、第2話では、何らかの通報によって家庭に介入することが多かったが、今回は母親からの相談から物語が始まった。
育児相談に来たのは、屋島美穂(富田望生)。愛菜(永井花奈)という3歳の娘を育てている。成長が遅い、好き嫌いが多い、スプーンが使えない、言葉が少ない。
自宅保育をしている美穂にとっては、愛菜の成長の責任の全てが自分にのしかかっているような感覚なのだろう。蔵田(林遣都)は励ますものの、美穂には響いていない様子。母親から大きすぎる責任を取り除くことの難しさを実感する。
「大丈夫?」と問われたら「大丈夫じゃない」とは返せない
面談での美穂の様子を心配した蔵田と翼は翌日、美穂の自宅へ。
美穂の自宅には知育玩具や児童書が揃い、旦那の達哉(前原瑞樹)はトラックの運転手で家にいることが少ない、棚の上には市販の睡眠改善薬。自宅で改めて美穂の様子を見た蔵田は、育児ノイローゼの診断を勧める。
蔵田がショートステイの利用を勧めた時の反応や育児ノイローゼの診断を勧めたときの美穂の反応から、美穂の中にある育児をうまくこなせない自分への嫌悪感が感じられた。
母親なのだから子どもしっかり育てなければならない。そんな重圧が、外部に助けを求めることも、助けを求めないと取り返しのつかないことになりそうな自分の状態すらも拒絶してしまう。
そんな美穂の状態を心配して、元気づけたいと友人として一緒に遊園地に遊びに行く翼。しかし、それは余計に美穂を追い詰めることになってしまった。
ノイローゼ状態にある美穂に「大丈夫?」という言葉がどれだけ響かないのかを、演出から実感した。「大丈夫?」と問われたら「大丈夫」「ありがとう」「明日から頑張れる」としか言えない。もう頑張れない状態であっても。
踏み込みすぎれば、家庭を壊してしまうことも…。
遊園地に行った次の日、児童相談所には愛菜が泣き続けているという通報が。翼は自分の言動を強く後悔することになってしまった。
第1話、第2話と翼の踏み込みすぎた行動が功を奏することが多かったが、今回は家庭を、美穂を壊しかねない状況になってしまった。家庭への不用意な深入りは、逆に家庭を追い詰めてしまう。蔵田にも自分の言動を後悔することになる経験があった。
福祉司はクライアントの横に立ち一緒に歩んでいるような感覚であっても、クライアントからすれば、自分は福祉司に手を差し伸べて貰わなければならないような人間だと追い詰められているような感覚になるかもしれない。適切に行政の助けを利用してもらうためにも、引くべき一線がある。
現在の蔵田からすれば、屋島家にできる助けは愛菜の一時保護だ。しかし、翼の美穂を助けたいという感情とこれまでのおせっかいが、蔵田の後悔を少しほぐすことにつながる。蔵田は美穂を探し出すために走り、ネグレクトと判断されないように動いたのだ。
蔵田が美穂を見つけられたからこそ、美穂は助けを求められた。息を切らしながら語る美穂の様子からは、彼女がギリギリのところでどれだけ耐えていたのかが痛いほど伝わってきた。富田望生の高い演技力の賜物だ。
「完璧ではない自分」を許すこと
美穂が落ち着くまで、愛菜は児童相談所で預かることに。母親を求めて泣きながらも、愛菜は集団の中で少しずつ成長していく。
それは美穂がこれまで丁寧に根気強く教えてきたからだ。愛菜の様子を見て、美穂はやっと母親としての重圧を手放し始めることができた。
核家族化が進む現代。昔のように親戚や近所の人との関わりの中で子どもを育てるのは難しい時代だ。保育園や幼稚園を利用する前の年齢ともなれば、子育ての責任は両親の肩に重くのしかかる。
美穂は児童相談所に育児相談をするという一歩を踏み出すことができたが、それすらできなかったらと思うとゾッとする。母親だけでなく、父親も積極的に育児に参加すべきという意見もあるだろうが、そもそも父と母のふたりきりで育児のすべてをこなすことは不可能に近いことなのだと認めることが大切だろう。
悩んだら行政に相談する、心身が限界なら行政や民間のショートステイやシッターサービスを利用する、家事をアウトソーシングする。そうやってさまざまな「やらなくちゃ」を少しでも手放し、完璧な親を求めずに助けを求める自分を許す。
親でいる前に1人の人間である自分を大切にしてほしい。そんなことを考えてしまった。
【著者プロフィール:古澤椋子】
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
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