磯村勇斗&堀田真由の”約6分”長回しに魅入られたワケ。ドラマ『ぼくほし』に感じる「誠実さ」とは? 第2話考察&感想【ネタバレ】
磯村勇斗主演のドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)。本作は、いじめや不登校など学校で発生する様々な問題を扱うスクールロイヤー(学校弁護士)が、不器用ながらも向き合う学園ヒューマンドラマ。今回は第2話のレビューをお届け。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 感想 レビュー】
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失恋は“いじめ”かどうか?
前回、生徒会長である鷹野(日高由起刀)の「普通に学校好きなんで」という言葉に不思議な“色”を感じた健治(磯村勇斗)は、生徒たちが“ほんとうのさいわい”を求める手助けをしたいと事務所の所長である久留島(市川実和子)に申し出る。
そんな彼がスクールロイヤーとして直面することになったのが、学生同士の恋愛で生じたトラブルについて。学校ではよく起こりうる問題だが、今回のテーマは「失恋は“いじめ”かどうか」についてだ。
第1話では、仲睦まじい様子を見せていた藤村(日向亘)と堀(菊地姫奈)。しかし、彼らの恋仲は早々に終わりを迎えてしまう。さらに堀は、藤村と別れてからすぐに新しい恋人を作っていた。失恋した藤村はその事実を受け入れられずに教室を飛び出して、「これはいじめだ」と激昂したあと不登校になってしまう。
教師たちは、たかが恋愛の揉め事だと認識していたが、スクールロイヤーである健治は「いじめ防止対策推進法」の「被害者が心身の苦痛を感じた場合」を例にして、このトラブルをいじめと断定する。弁護士の口からはっきりと言葉にされる“いじめ”という文言ほど重いものはない。健治の断固とした主張は、学校に思わぬ波紋を起こしていく。
磯村勇斗が漂わせる柔らかな包容力
そんな本エピソードで特に印象に残ったのは、夜道を歩く健治と珠々(堀田真由)が意見を交わす最中、思いの丈をぶつけあう場面だった。
すべての事象をいじめ防止対策推進法に基づいて解決しようとする健治に対して、「被害者」と「加害者」という言葉をさらっと口にする健治に違和感を抱く珠々は、宮沢賢治の童話「よだかの星」を引用しながら、そもそもの法律自体に疑問を呈する。
あくまで法律を原則に弁護士として話す健治と、生徒たちの心を第一に考えて、教師の立場として言葉を紡ぐ珠々。双方ともに間違っていないからこそ、異なる立場から繰り出される相反する主張は、今までにない“視点”をふたりに芽生えさせる。
約6分間の長回しによって撮影されたシーンでは、磯村勇斗と堀田真由がそれぞれ静かに、しかし心に沸々と湧き上がる思いを率直に吐露するふたりを熱演していた。
磯村が漂わせる柔らかな包容力が、見る見るうちに感情が溢れ出していく堀田の芝居を受けとめる。健治の口数はそこまで多いわけではない。それでも、珠々の言葉を聞いて、健治の頭に新しい問いや感情が生まれていく様子が、磯村の表情からは見て取れるようだった。
センシティブなテーマの中で響くセリフ
また、この作品では明らかに「普通」や「常識」という言葉が意図して使われている。ある意味、どれだけ今の世の中で、これらの言葉が便利かつ雑多に扱われているかを表しているとも言えるだろう。だからこそ健治は、定義されていないあいまいな言葉に戸惑いを覚えながら「ムムス」と呟くのだった。
実際、「恋人に振られたくらいで…」と思っている人もいるかもしれない。それでも、健治は誰かの苦しさを矮小化しない。学校に行きたくないと話す藤村に対しても、湯船に浸かって体を温めてはどうかと助言しているように、彼は誰かの心身の苦痛に自然と寄り添ってしまうのだろう。
たまたま保健室で遭遇した堀からは、今回のトラブルに対する率直な思いを打ち明けられて、法律に基づいた自らのアプローチが間違っていたことに気づく。「被害者を増やしているだけだ」と自嘲する健治だったが、それでも「いじめ加害は悪だ」と断じていることには安心する。
珠々が健治に話した「いじめをしたことのある人間は全員、世界一情けない方法で滅びればいい」というセリフもまた、複雑でセンシティブなテーマを扱っている本エピソードの中で、確固たる意思を持った言葉として響いていた。
誠実さを感じさせる脚本
その後、健治の真摯な言葉を受けて、天文部の部室にやってきた藤村は「傷ついたけど、いじめじゃないです」とはっきりと口にする。藤村を演じた日向亘のまっすぐな瞳が、彼の等身大な思いを混じり気なしに伝えていく。
問題を大袈裟に解決しないところにも、このドラマの誠実さを感じる。藤村と堀を無理に引き合わせることもなく、大勢の生徒の前で事情をつまびらかにして、彼らに謝罪させることもない。
生徒たちとともに、正解のない問いと向き合って、それぞれが互いに吐き出す言葉をできるだけ尊重しようとする。感情に任せるのではなく、飲み込んで、消化して、言葉にする。教師とは異なる立場から、生徒たちがまだ知らない道筋を静かに敷いていく健治の姿は、学園ドラマにおいて稀有な存在と言えるだろう。
「健気な鈴が、銀色の粉をまきながら震えているようで、心地がいいです」
詩的なセリフを口にする健治に対して、珠々は呆気に取られた目線を送る。彼女自身も、健治に敬愛する宮沢賢治の姿を重ねているのだろうか。3年の高瀬(のせりん)と1年の江見(月島琉衣)を交えて、とうとう動き出した天文部の活動も気になるところだが、健治と珠々の関係性の変化にも注目していきたい。
【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。
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