なぜ松たか子の芝居には嫌味が一切ないのか
もうひとつ、贅沢を挙げるとすれば、主演の松たか子だ。劇中、終始、チャーミングすぎた。
15年前に生きている夫に会うことができて、ひょっとしたら死を回避できるのかもしれないと、一生懸命になるカンナ。これは実際に映画館で確かめてほしいけれど、とにかく思いつく方法を必死で試す。その姿がとてつもなく、可愛い。こんな可愛い47歳がいるのだと思うと、不思議な気持ちになる。
ただ疑問も同時にわいてくる。ふたりは離婚寸前でもうキスもご無沙汰なほど、夫婦関係は冷え切っていたのに、なんでこんなに一生懸命になれるのだろう?
その先の思考に浮かんでくるのはタイプリープ作品の定番かもしれないが「もし、自分が15年前に戻ったらどうするんだろう?」。15年前に大好きでそれでも振られてしまった相手に振られないよう、一生懸命になれるのだろうか…いや、それは無理だ。別れた理由は互いの未熟さだ。会うのなら今、見た目はだいぶ変わったけれど、考え方が成長した自分で会いたい。でないと、また悲しい別れを体験する…と、心の中で述懐。
ああ、そうか。カンナは自分以外のためだから、一生懸命になれるのか。そんな自問自答を鑑賞しながら繰り返した。きっと映画館の中にいる観客たちも同じで、笑ったり、泣いたり。そしてそうさせるのは松たか子の吸引力。本作だけに限らず、彼女の演じる姿は本当に魅力にあふれている。出演した作品をぐるりと見渡すと比較的、単身と異性にモテる役が多い。一見すると女性から反感を買いがちで、難しい役でもあるのに、なぜ彼女にフィットするのか。