「恐怖は時代に合わせて進化する」映画『事故物件ゾク 恐い間取り』中田秀夫監督が語るJホラーの行方。単独インタビュー

text by 司馬宙

映画『事故物件ゾク 恐い間取り』(原作:松原タニシ)が、現在公開中。本作は、売れない芸人がネタ探しのために“事故物件”に住むというユニークな設定が話題を呼んだ作品の続編だ。今回は、監督を務めた中田秀夫氏にインタビューを敢行。キャストの魅力から日本ホラーの現在まで語り尽くしてもらった。(取材・文:司馬宙)

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バラエティからドキュメントへ

中田秀夫監督 写真:武馬怜子
中田秀夫監督 写真:Wakaco

―――5年ぶりのシリーズ最新作とのことでキャラクターも変わり、主役が亀梨和也さんからSnow Manの渡辺翔太さんに、ヒロインも奈緒さんから畑芽育さんに一新しています。キャラクターやキャストが変わったことで、物語にも変化はありましたか。

「1番の変化は、主人公の職業の違いですね。簡単に言うと、前回は『事故物件住みます芸人』が主人公だったこともあって、恐怖体験を『エンタメ』として提示する趣向が強くなっています。

一方、今回の作品は、主人公がタレントということもあり、より心霊実話風に、ドキュメンタリーチックな雰囲気が色濃くなっているかなと」

―――今作も前作同様お笑い芸人の方々が多数出演されていますが、配役に違いはありますか。

「前作は、安田大サーカスの団長さんをはじめ、お笑い芸人の方々がお笑い芸人として出演されていて、バラエティの延長として恐怖体験を取り上げていました。

一方、今作では、シソンヌのじろうさんにせよ、ますだおかだのお2人にせよ、『普通の役』として出演されていて、より一般的なホラー映画になっています」

―――ちなみに、前作は劇作家のブラジリィー・アン・山田さんが、今作は映画監督の保坂大輔さんが脚本を担当されていますが、違いはありましたか。

「ブラジリィー・アン山田さんは映画の脚本も担当されたことがあったので、そこまで違いはありませんでしたね。劇作家の方で映画を撮られる方もいらっしゃいますし、反対に映画監督で演劇の演出をされる方もいらっしゃるので、演劇、映画でそこまで違いはないのかな、と思います」

ロケ地から漂う「ホンモノ」の質感

中田秀夫監督 写真:武馬怜子
中田秀夫監督 写真:Wakaco

―――事故物件をテーマにした作品ということで、今回は4軒の物件が舞台になっています。特に印象的な物件があれば教えてください。

「一軒目のマンションですね。バブル期に建てられた古い建物で、リフォーム前の部屋をお借りできたので、壁紙がめくれていたり、カビが生えていたり、畳が傷んでいたりと、実際は事故物件ではないにも関わらず『ホンモノ』の質感が漂っていました」

―――なるほど、それはうってつけの物件ですね。

「はい。基本的に、どのロケ地もある程度作り込みをするんですが、1軒目についてはできるだけそのままの雰囲気を活かしています」

―――ところで、「事故物件」というテーマがセンシティブである以上、ロケ地探しもかなり大変な印象がありますが…。

「大変ですね。基本的にロケ地は、助監督が候補を絞って、そのあとで僕がカメラマン達と一緒にロケハンして、といった具合に何段階か経て決まるんですが、隣近所に住んでらっしゃる方の意向もあるので、毎回かなり難航します。

中には、本物の事故物件なら貸してもいい、と言ってくださる方もいらっしゃるんですが、実際の事故物件で撮るわけにもいかないので(笑)」

―――なるほど、現実と理想の折り合いをつけながら制作されているのですね。

「はい。その点、今回はオーナーさんのご厚意で数日間貸してもらえたので、本当にありがたかったです」

若手たちがのびのび育つ「中田組」

中田秀夫監督 写真:武馬怜子
中田秀夫監督 写真:Wakaco

―――今作では、タレント志望の主人公・桑田ヤヒロを渡辺翔太さんが演じています。渡辺さんの魅力を教えてください。

「渡辺さんは、とても努力家でしたね。ミュージカルに出演されていたこともあって、発声方法がやや舞台寄りだったんですが、リハーサルを重ねるうちにみるみる映画向きの演技を習得していきました。

初日の撮影も、藤吉役の吉田鋼太郎さんとの会話のシーンだったんですが、吉田さんの存在感にひけをとっていなくて、カットバック(人物を別々に撮影し交互に切り返す方法)からツーショットの撮影に切り替えました。日本のトップアイドルが演技に真摯に向き合う様子を見て、とても感慨深かったです」

―――今作では、ヒロインの春原花鈴役として畑芽育さんが出演されています。畑さんはいかがでしたか。

「畑さんは、幼少期から女優として活躍されているのでプロフェッショナルでしたね。

僕とは二世代歳が離れているので、はじめはちゃんとコミュニケーションが取れるか不安だったんですが、ラブシーンもお手のものでしたし、涙を流すシーンでは『ここで泣いてほしい』と思う部分でしっかり泣いてくれる。リハーサルも撮影もサクサク進むので早上がりする日もありました。

あと、何より嬉しかったのが、畑さん自身撮影を楽しんでくれたことですね。これはメイクのスタッフに聞いたんですが、撮影の帰りに畑さんが『私、この組好きだわ』って言ってくれていたみたいなんです。

畑さんは、スケジュールの関係で途中から撮影に参加しているので緊張感もあったと思うのですが、撮影チームを居心地のいい場所と感じてくれたんだな、と、とても感慨深かったですね」

変容し続けるホラーの行方

中田秀夫監督 写真:武馬怜子
中田秀夫監督 写真:Wakaco

―――今回の作品では、スマートフォンのGPS機能が物語の重要な鍵を握っています。ホラー映画で最新のガジェットを扱うことについてはどのようにお考えでしょうか。

「あまり扱いたくないというのが正直なところですね(笑)。『リング』(1998)にせよ『女優霊』(1996)にせよ、モニターを映すという『フレームインフレーム』が恐怖の源泉としてあったわけです。一方、現代は画面があちこちにあって、画面を通して情報を得るのが当たり前になっている」

―――確かに、今回のインタビューも、スマートフォンの音声メモで録音していますからね(笑)。

「ですよね(笑)。でも、僕だってスマートフォンを使っているし、もう1990年代に戻ることはできない。なので、デジタルにはデジタルなりの恐怖表現があると信じて日々模索しています」

―――ありがとうございます。ちなみに、近年、日本ホラー映画大賞の創設やYouTubeでのホラーチャンネルの人気など、Jホラーが復権の兆しを見せつつあります。この点については中田監督はどのようにお考えでしょうか。

「正直にいうと、今のホラーブームは、1990年代のJホラーとは一線を画したものだと思っています。スペインをはじめとするカトリック圏では未だにJホラーの作品が人気がありますが、世界的なブームからはもう年以上経っていますしね。

ただ、ホラーは不滅のジャンルなので、完全になくなることはないのかなと」

目の前の人を楽しませる

中田秀夫監督 写真:武馬怜子
中田秀夫監督 写真:Wakaco

―――では、今後も日本のホラー映画が世界的に注目を集める日が来るのでしょうか。

「大きな波が来れば、また注目を集めると思います。ただ、今回の作品もそうですが、海外の映画を意識して作ったことって今までないんですよ。

いきなり広い舞台を意識するのではなく、日本だったら日本、アメリカだったらアメリカで、まずは目の前にいる人がどうすれば面白がってくれるかを考えることが大切だと思います」

―――ありがとうございました。

【作品概要】

タイトル:『事故物件ゾク 恐い間取り』
監督:中田秀夫
原作:松原タニシ「事故物件怪談 恐い間取り」シリーズ(二見書房刊)
出演:渡辺翔太(Snow Man) 畑芽育 山田真歩 じろう(シソンヌ) 加藤諒 金田昇 諏訪太朗 佐伯日菜子 ますだおかだ なすなかにし 河邑ミク 松原タニシ 大島てる 田中俊行 亀本ゆず 笹原妃菜 櫂作真帆 森直子 笹原妃栞 正名僕蔵 / 滝藤賢一 吉田鋼太郎
企画・配給:松竹
制作プロダクション:松竹撮影所
公開:2025年7月25日(金) 全国公開
©︎2025「事故物件ゾク 恐い間取り」製作委員会
公式サイト
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(取材・文:司馬宙)

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【了】

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