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映画後半のアクションは本当に前半とは無関係なのか? 映画『Cloud クラウド』を貫く転売の論理。考察&評価レビュー

text by 冨塚亮平

黒沢清監督の最新作『Cloud クラウド』が公開中だ。主演の菅田将暉が演じるのは、転売で稼ぐ男・吉井良介。本作を理解する上で重要なモチーフである「転売」と画面のあり方に着目し、作品の魅力に迫る。(文・冨塚亮平)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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【著者プロフィール:冨塚亮平】

アメリカ文学/文化研究。神奈川大学外国語学部准教授。ユリイカ、キネマ旬報、図書新聞、新潮、精神看護、ジャーロ、フィルカル、三田評論、「ケリー・ライカートの映画たち漂流のアメリカ」プログラムなどに寄稿。近著に共編著『ドライブ・マイ・カー』論』(慶應大学出版会)、共著『アメリカ文学と大統領 文学史と文化史』(南雲堂)、『ダルデンヌ兄弟 社会をまなざす映画作家』(neoneo 編集室)。

黒沢映画で不気味な存在感を放つガジェットたち

©2024 Cloud 製作委員会

 黒沢清監督の最新作『Cloud クラウド』は、一見したところ転売についての映画ではないように見える。たしかに、菅田将暉演じる主人公吉井の副業は転売屋であり、映画の序盤は彼の仕事を中心に出来事が連鎖していく。しかし、少なくとも作品のテイストが一変する後半以降の展開は、直接には転売とは何の関係もない。

 黒沢自身も、まず映画後半のガンアクションを撮りたい、というところから出発して、現代の日本でそれらのアクションを成立させられる物語を逆算して考えるなかで、かつて『贖罪』(2011)でも取り入れた転売屋という設定を追加したとインタビューで明かしている。
 
 だが、こと黒沢映画においては、企画を成立させるために導入された要素だから重要ではない、と断じることは大きな誤りだろう。これまでも彼は、作家として是非とも表現したいテーマというよりは、商業的な要請に従うための一種の手段として、たとえばJホラー作品群における幽霊、『回路』(2001)におけるインターネットといった、時事的な話題と関わる要素を自作に取り入れてきた。そして、その度に黒沢は結果的に、幽霊やインターネットとは何なのかという原理的な問いを、歪んだ論理で執拗に突き詰めてきた。

 実のところ彼の映画に固有の感触は、本人が表現したい対象と同程度か、あるいはむしろそれ以上に、これら外的な要因によってある意味でたまたま映画に登場することになったガジェットの扱いにこそ見出せるのではないか。

 じっさい、『Cloud クラウド』における転売屋の捉え方もまた、好きなように活劇を撮るための方便という表面的な印象を超えた過剰さを孕んでいる。さらに、この映画が誇張する転売という仕事の性質は、本作のみならず、いま駆け足で確認したような彼の映画製作のプロセスともどこかで重なり合う性質を持つように思えるのだ。

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