「中高生向け恋愛映画」のふりをした“メタ恋愛映画”の傑作…稀有な魅力とは? 『不死身ラヴァーズ』徹底考察&評価レビュー
高木ユーナ原作の映画『不死身ラヴァーズ』が5月10日より公開。映画『ちょっと思い出しただけ』を手掛ける松居大悟監督がメガホンを取った本作は、10年以上温め続け、満を持して公開された。今回は、キャラクター達の心情を考察しながら、本作から連想する昭和の名曲を紹介する。(文:前田知礼)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:前田知礼】
前田 知礼(まえだ とものり)。1998年広島県生まれ。2021年に日本大学芸術学部放送学科を卒業。制作会社での助監督を経て書いたnote「『古畑任三郎vs霜降り明星』の脚本を全部書く」がきっかけで放送作家に。現在はダウ90000、マリマリマリーの構成スタッフとして活動。ドラマ「僕たちの校内放送」(フジテレビ)、「スチブラハウス」、「シカク(『新しい怖い』より)」(CS日テレ)の脚本や、「推しといつまでも」(MBS)の構成を担当。趣味として、Instagramのストーリーズ機能で映画の感想をまとめている。
藤子・F・不二雄のSF短編集の1話のよう…だけどまっすぐラブストーリー
物語は、主人公・長谷部りの(見上愛)が、幼い頃に出逢った“運命の相手”である甲野じゅん(佐藤寛太)と、“運命の再会”を遂げるところから始まる…といえば、王道キラキラ青春ラブストーリーに思えるかもしれない。
が、本作の監督は『ちょっと思い出しただけ』(2022)でクリストファー・ノーランの『TENET』(2020)のごとく時間を1年単位で逆行させた松居大悟である。時間SFの精鋭部隊・ヨーロッパ企画で文芸助手を務めたこともある松居大悟監督が、そんな映画を撮るはずもない。
この映画、なんと「好きな人と両想いになったら相手が消えてしまうラブストーリー」なのだ。
主人公の長谷部は、このジレンマを抱えた現象に悩まされる。「好き」だから「両想い」になりたいが、「両想い」になると相手は消えてしまう。好きになった人と一緒に居続けられる唯一の条件は「相手が自分を好きにならないこと」であり、自分に対して「好きという感情を抱かない人」としか一緒に居続けることができない。
そのため、中学生の長谷部の前に現れた「陸上部の短距離選手のじゅん」も、両想いになったタイミングで長谷部の目の前で消失してしまう。しかし、不思議なのはここからで、じゅんは「高校の軽音楽部の先輩のじゅん」として再び長谷部の前に現れるのだ。
見た目はじゅんだが、中身は全く別人として。まるで『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)で異なる人生を歩んできたスパイダーマンたちが世界線を飛び越えてやってきたように、設定の異なるじゅんは消えるたびに長谷部の前に現れて、何度も“運命の再会”をさせてくる。