古参も新規ファンも虜に…『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』は一体何が凄かったのか? 大成功を収めた理由を徹底解説&レビュー

text by 島晃一

2025年春、ガンダムシリーズとエヴァンゲリオンの奇跡的な邂逅が話題を呼んだアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』。スタジオカラーとサンライズの共同制作、鶴巻和哉・榎戸洋司・庵野秀明という強力布陣が生み出したこの異色作は、旧来の宇宙世紀世界観を大胆に再構築し、ガンダムファンのみならず幅広い層を巻き込んだ。TV放送終了後もSNSを中心に考察や二次創作が活発に行われており、その余韻はいまだに冷めやらない。本記事では、話題作『ジークアクス』の革新性と魅力を改めてひも解く。(文・島晃4E00)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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「もしシャアがガンダムに乗っていたら」──ifの宇宙世紀が拓いた“もう一つのガンダム”

©創通・サンライズ
©創通・サンライズ

『ガンダム』シリーズ最新作として2025年4月から6月まで放送されたアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』。『エヴァンゲリオン』シリーズのスタジオカラーと『ガンダム』シリーズのサンライズがタッグを組んだアニメだ。

 監督に、『フリクリ』、『トップをねらえ2!』や『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズを監督した鶴巻和哉、脚本・シリーズ構成に、その3作品にも関わった榎戸洋司、そして『エヴァンゲリオン』を産み出した庵野秀明が共同脚本をつとめた。

 1月17日には、テレビ放送に先駆けて、劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』が上映。『ガンダム』シリーズ歴代2位となる興行収入を記録するなど、テレビ版への期待を集める。

 そして、テレビ放送が開始されると関連ワードが次々とトレンド入りするなど、SNS上を席巻し大きな盛り上がりを見せた。

 放送が終了した今、『ジークアクス』の魅力について振り返りたい。

 驚くべきことに、『ジークアクス』は、宇宙世紀0079年から始まる一年戦争で、『機動戦士ガンダム』の主人公アムロではなくライバルのシャアがガンダムに乗り込んだら、というIFのストーリー、仮想戦記として作られた。本作の主な舞台は、一年戦争から年月が経った宇宙世紀0085年、本来勝利する地球連邦軍ではなく、ジオン公国が勝利した世界だ。

 本作では、シャアやシャリア・ブルなどファーストガンダムに出てきた人物だけでなく、『機動戦士Zガンダム』からもキャラクターが登場し、オリジナルとは異なる活躍を見せる。また、人物だけでなく設定や音楽、構図など、ガンダムファンならばつい反応してしまうような過去作のオマージュが随所に散りばめられていた。

 特に注目したいのが7話。この回では、『Zガンダム』にも登場したサイコガンダムとの市街戦が行われる。旧作を意識した構図で変形した途端に、完璧とも言えるタイミングで『Zガンダム』の音楽が流れる。それだけでなく、サイコガンダムは、オリジナルにはない更なる変形をし、それはまるでエヴァンゲリオンのようだった。SNS上での考察を促すこうした演出は、『エヴァンゲリオン』のスタッフによるパラレルワールドの『ガンダム』であるこの作品を、まさに象徴するシーンだ。

 しかし、『ジークアクス』の成功の要因は、従来のファンだけでなく、新しいファンにもアプローチした点にあるだろう。

従来のファンと新しいファンをつなぐ仕掛けの数々

©創通・サンライズ
©創通・サンライズ

 本作の主人公は、シャアではなく、ましてやアムロでもない。新しい主人公は、本作のオリジナルのキャラクターで、スペース・コロニーで生まれた高校生の少女、コロニーでの暮らしに窮屈さを感じる若者アマテだ。アマテが出会った戦争難民のニャアン、赤いガンダムのパイロットで、謎の多いシュウジ。この3人の関係を中心に、物語が展開していく。

 メインキャラクターだけでなく、1話分のみ登場するオリジナルのゲストキャラクターも魅力的だった。4話に登場し、戦争に未だ囚われ、赤いガンダムに執着するシイコ・スガイは、強烈なインパクトを残し、放送後に発売された彼女のグッズは即完売した。

 舞台は宇宙世紀というファーストガンダムの延長線上の世界ではあるものの、現代社会を意識させられる。登場人物たちはスマートフォンを使っている。また、アマテはマチュと名乗ってガンダムに乗り、モビルスーツで決闘する「クランバトル」に巻き込まれるが、その様子をスマホで見るカットは、ゲーム配信を見ているかのようだ。ニャアンが闇バイト的な仕事に従事している点も、現代的な価値観を強めている。

 現代的な世界観の中、旧作と今作オリジナルのキャラクターが入り乱れ、物語が進んでいく。本作は、ガンダムの従来のファンと、新しいファンをつなぐような作品でもあると言える。

構図・音楽・設定に散りばめられたオマージュの数々

©創通・サンライズ
©創通・サンライズ

 絵柄もその印象を強めている。シャアが活躍した宇宙世紀0079年のエピソードでは旧作に寄せてシックに、マチュたちが暮らす0085年では、人物がポップかつコミック的に描かれた。IFのストーリーである今作ならではの表現であり、従来のファンと新しいファンをつなぐこの作品らしい演出だ。

 ところで、本作の後半では、ifの世界が1つだけではなく、複数の世界線が存在するパラレルワールドだったことが判明する。この設定に加え、物語の展開が駆け足なこともあってか、オリジナルキャラクターのその後や、旧作のキャラクターの別世界線での活躍などを考察する投稿、二次創作的な投稿も溢れた。こうした設定や展開が、SNSが盛り上がる大きな要因の一つだった。

 考察や二次創作は、放送が終わった今なお続いている。そしてその度に、今作だけでなく過去作が参照されるのだ。『ジークアクス』は、ガンダムという巨大なコンテンツへの入り口になる作品であり、過去作を振り返るきっかけにもなる作品でもあると言えるだろう。

【著者プロフィール:島晃一】

映画・音楽ライター、DJ。福島県出身。『キネマ旬報』、『ミュージック・マガジン』、『NiEW』などに寄稿。『菊地成孔の映画関税撤廃』(blueprint)で映画『ムーンライト』のインタビューを担当。J-WAVE「SONAR MUSIC」の映画音楽特集、ラテン音楽特集に出演。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」や『散歩の達人』では、ペデストリアンデッキ特集といった街歩きの企画にも出演、協力。渋谷 TheRoomでクラブイベント「Soul Matters」を主宰している。

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【了】

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