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「人間」の境界線を問う衝撃作…モデルとなった実際の事件の深すぎる闇とは? 映画『月』徹底考察&評価。忖度なしガチレビュー

text by 司馬宙

2016年に相模原市で起きた障がい者施設殺傷事件。世間を震撼させた本事件をモチーフにした映画『月』が公開中だ。原作は辺見庸の同名小説で、監督は『舟を編む』の石井裕也。そして主演を宮沢りえが務める。今年最大の問題作を、忖度なしでレビューする。(文・司馬宙)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

世間に衝撃を与えた殺傷事件
その「重々しさ」と「後ろ暗さ」

(C)2023『月』製作委員会
C2023月製作委員会

―なんとも重々しく、苦しい映画だ。

筆者は、この映画を見て1日後に筆をとっているが、いまだに消化しきれない部分が多く残っている。この本作特有の重々しさの正体は、本作の題材である相模原市障がい者施設殺傷事件特有の後ろ暗さだろう。

死亡者19名、負傷者26名という日本の犯罪史上類を見ない犠牲者を出したことで知られるこの事件は、被告自身も精神疾患の疑いがあることから、二重三重で複雑な事件となった。

しかし、私がとりわけ衝撃を受けたのは、この事件に対する社会の反応だった。

政治家を含めて、多くの市民がはっきりと断罪せず、どこか煮え切らないような態度を残す。それどころか、インターネットの某掲示板には、被告を英雄視する意見も少なからず見られた。

こういった反応に筆者は、生産性と経済合理性を極限まで突き詰めた日本社会が、「障がい者は生きている意味がない」と豪語するこの事件の被告と裏で結託しているような妙な気持ち悪さを覚えた。

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